HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
最終回 人って、自分の思ってることを自分が一番知らない。手相は、自分が思ってることを知る旅。
糸井 前に文章で書いたことあるんだけど、
「そっち行っちゃダメよ」って言われても、
じゃ、どこ行けばいいのかわかんないでしょう。
スイカ割りの論理なんですよ。
目隠しして棒持ってスイカを叩くときに、
「そっちじゃない」ってどれだけ数言われても、
スイカに当たらないけれど、
「近い」とか「いいよ」とか言われてると、
スイカは割れるんです。
だから、そこは大事なんだよ。
みんなが「違う」ばっかり言うから‥‥
日笠 そうそうそう。
糸井 もう違うなりに走っていっちゃえ!
とかね(笑)、
海に向かって飛んでっちゃうやつとかね、
もう人がいても殴っちゃえとかね。
だから、「そっちそっち!」と言うべきなの。
「いい線!」とかね。
日笠 うん、そう。「落ち着いて」とか
「いいよ」とかって言うと、ねえ。
糸井 そう。「悪くない」だけでもいいです。
そしたら、スイカが割れるわけだから。
それは、何だろう、当然のことですよね。
日笠 わかりますよ、すごく。
私、スイカをうまく割っていただく
お手伝いをさせていただくわけだから、
そういう意味ではやっぱり40分のなかで、
余計なこと言っちゃうと
割れないわけですから。
糸井 そうだよね。スイカ割りに来たのに、
桃でも食べましょうみたいになっちゃうよね。
でもマーコのところで観てもらった人って、
嬉しそうに帰ってくるよ。
日笠 あ、そうですか(笑)!
よかった、よかった。
糸井 で、面白いのは、
「何を観てもらったの」と訊いても、
あまり言わないこと。
本気なんだなと思った。
本気じゃなかったら、
もっとペラペラしゃべると思うんだ。
それが僕にはちょっと新鮮で、
「えー、みんな、こんなに本気なんだ」って。
で、喜んでるんだから、
いいことしてると思う(笑)。
 
日笠 よかった。
日頃人に言えないことをカミングアウトする
場にもなってるわけですよね。
人に言えなかったとか自分の中でとか、
あとは、自分でしゃべってるうちに
やっぱり自分で聞いてることで、
「興奮してる」とか、
「あ、こういうことで自分が傷ついてる」
ってわかって、
‥‥うち、ティッシュがすごい消費量なの。
3割は泣いてるんですから。
糸井さんのまわりの人も
たぶん半分以上は泣いていると思います。
糸井 涙が出ちゃうんですか。
そりゃ気持ちいいだろうね。
日笠 うん、皆さん泣かれますよ。
泣かせ屋さん。
糸井 なんか触っちゃうんだね。
基本的に、人って自分の思ってることを
一番知らないから(笑)。
日笠 そうですよね。本当にそう。
糸井 そこがやっぱりポイントだよね。
日笠 そうね。それありますね。
糸井 いろんな思いつきとかって、
自分が思ってることを知る旅ばっかりです。
「やっぱりそうか」みたいな。
日笠 そうそう、うん、そうです。
結局三つ子の魂じゃないけど、
「あ、ずっと同じなんだ」っていう感じですよね。
糸井 やっぱり愛の問題が多いですか。
日笠 愛は95%。愛がらみが。
ついでのようにでも
愛がからんできますね、いろんな愛。
糸井 だから、二番手に聞くことも
含めて言うと愛が100%みたいな。
日笠 そうですね、大体ね。
だれもが愛の問題ではいろいろある。
でも忘れちゃうんですよね、
何話したかっていうのは。
糸井 マーコ自身が?
日笠 人と話すでしょ? そうすると、
全部濃い40分が続いていくから、
例えば4時の回の人のときに
「1時だれだっけ? ああ、あの人だ」
と思っても、
「どういう話だったっけな?」
ってもう忘れてたりするんですよ。
仕事終わってもう開放しちゃうと
すべて──ほとんどすべて忘れます。
糸井 そうか‥‥。
今日、ひさしぶりに話して思ったのはね、
マーコみたいなものが生まれる時代が
あったんだなってこと。
つまり、バンドがあったとかね。
今ってバンドがあるっていう気がしないんだよね。
日笠 うん、私もそう思いますね。
ユニットはあるけどね。
糸井 うん。バンドがあったとか、それから
「どうする?」って言葉を
本気でどうするって思ってたじゃない。
日笠 うん。
糸井 「どこ行く?」っていうのも、
「どうやって生きてく?」っていうのも含めて、
「どうする?」っていう問いかけを
本当に思ったよね(笑)。
日笠 本当に「どうする?」と思ってましたよねえ。
糸井 思ってましたよね(笑)。
今は「どうする?」って、
選択肢3つのうちから選びなさい、
じゃないですか。
あのときのあの頼りない自分と
社会の関係っていうので、
自分で何か考えざるをえなくて、
うちに帰ってひとりで悩んだり
考えたりしたことがその人たちを作ってきて、
きっとマーコはマーコで、
「どうするっていうのが本当にないのよ」
っていう時代を得たんだろうね。
日笠 私は「どうしてー?」と思って
生きてきたわけですよ、
なんか子どものときから、
「どうして、どうして、神様どうしてー?」
みたいな感じがあって(笑)。
糸井 細野さんみたいに5分でマリンバ弾けちゃう人は、
そこのところはそんなに叫ばなくていいよね。
日笠 あ、全然叫んでないですね。
糸井 ねえ。マリンバ弾けない人の叫びですよね。
僕ら、でも、今はもう「どうして?」と
言えなくてなっちゃってますよね。
日笠 ああ、私も今は言いませんよ。
糸井 逆にいうと、年取ると、
そこのイヤな楽しさはもうないね。
日笠 うん。うん。
糸井 あと、きっと、年寄り独自の健康とか
病気とかっていうところで思うんだろうな。
「子どもがグレた」とか
「今日、妻が家出しました」とかね。
日笠 ああ、みんな大変。
糸井 (笑)大変。
日笠 私、だから、こんなこと言っちゃなんですけど、
私、結婚しないじゃないですか。
例えば結婚したいとかだれかと暮らし始めるとか、
親と同居するとかいろんなことがやってくると、
この仕事できなくなっちゃうと思うんですよ。
糸井 そうだろうね。そうだろうね。
日笠 だから、今は全然ないけど、
昔何度か、子どものことで相談に来た人が、
「先生はお子さんいらっしゃらないから
 おわかりにならないんですわ」って。
でも、子どもがいないからわかること、
見えることもある。
結婚してないからわかること、
見えることもあるっていうのがあって、
なんか‥‥
糸井 よくわかってるがゆえに
答えを出せなくなっちゃうっていうこと、
ものすごく多いから。
方向がわかんなくなりますからね。
「いっぺんに100解決しろ」しかも
「向こうに歩いていけ」って言われても。
ひとつ解決したところで
そのあとの99について悩みになりますからね。
日笠 そうなんですよねえ。
私、まったく今日だれが来るかって
見ないようにしてるんですね。
事務所からもギリギリまで
スケジュールを送ってこないでくれって
言っていて。見てしまうと、
「ああ、あの人だ」とかって思うと──。
まったく何もわかんなくて
初めて会った人のことが、
わかるという意味では一番わかるんですよ。
身内だったり何度も会ってたり、
人となりとか背景とか知ってると、
少し“考える脳”が入っちゃうから、
わかんなくなっちゃうんです。
何もデータがなくて何もわかんない素の状態で
「はじめまして」で見ると、
へぇーってすごくわかる。
糸井 率直に面と向かうっていうのは
やっぱり簡単なことじゃないからね。
そこは難しいですよね。
日笠 知れば知るほどわからなくなりますね。
糸井 やっぱり頭で考えちゃうんだろうね。
日笠 手相は頭通してないですからね。
糸井 頭は概ね邪魔だよね。
日笠 ものすごく邪魔ですね。
糸井 その付近まで行くっていうときに
頭はすごく使えるんだけど、
そこからは「ちょっと帰っててくれる?」
っていうとこあるよね(笑)。
日笠 そう、ありますね。本当本当。
‥‥そうそう、糸井さん、
さっき言い忘れましたけど、
人さし指の付け根のわっかを、
「ソロモンの輪」といって、
ソロモン王の伝説から来てるんだけど、
だから人間以外の
言葉を持たない動植物と
自在にコミュニケーション取れるという印。
左右ともすごいくっきりきれい。
糸井 あ、そうなの? ソロモン?
日笠 私もブイヨンや猫の肉球を見て
暮らしたいなー。
 
糸井 (笑)きょうはどうも、
ありがとうございました。
 
 
2007-04-17-TUE
Illustrated by 酒井うらら