糸井重里のコラム
2025-08-27
ふつうにおいしいのこと。

・「ふつうにおいしい」というほめ方がある。おもに若い世代の人たちがつかっている言い方だ。この場合、「おいしい」が主題になっているのである。まずは肯定的な意味で「おいしい」と言っているのだ。しかし、その前につく「ふつうに」は、なんなんだ? 「めっちゃおいしい」というのではなく、期待していた以上に「おいしい」というようなことらしい。だから、おそらくエチケット的には、目上の人から高価なステーキをご馳走になったときなどは「ふつうにおいしい」とは発言しないと思われる。そういう場合は、すでに「かなり期待している」ので、さらにそれを上回ったら「ふつうに」とは言えなくなる。おそらくカジュアルな「めっちゃ」でもなく、「なんですか、これ?!」であるとか、「いままで食ったなかで最高」であるとか、「今日死ぬかもしれない」だとか、日常のなかに納まりきれない価値を表現するのだろう。「ふつうにおいしい」は、肯定しているけれど、じぶんの日常の価値体系のなかにあるということだ。コンビニで買ったスイーツであるとか、高くはないエスニック料理であるとか、少し変わったお土産のお菓子なんかに言うのだろう。

「ふつうに」という表現は、年長者には「やや見下してないか?」と思われそうだが、そういうことでもないということは覚えておきたい。「考えようによっては、おいしい」ではなくて、「おれの知ってる世界で認められる、おいしい」なので、いわば、選挙で言えば「一票は投じている」のである。しかし、ま、「ふつうに」表現も、「流行」ではあるので、そのうちだれも言わなくなるだろうと予言しておく。

ぼくには、「ふつうに」の反対側にあるような「めっちゃ」の多用のほうが、気になる。いわゆる価値の過剰(インフレ)表現なのだが、とにもかくにも、大勢の人たちがむやみに使っている。「めちゃくちゃ」の簡易形なんだと思うのだが、老若男女、「めっちゃ」をつかいすぎていると思う。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。なんか数日無理をしてて、ややくたびれましたが、平気です。

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