いちど、浅丘ルリ子さんの家を訪問させていただいたことがあってね。
玄関に女の人が出てきたんだけど、ぼくはその人を浅丘さんの妹さんだと思って。
まさか女優さんがドア開けるなんて思わないから。
「こんばんは」とか言いました。
向こうは勝手にいろいろしゃべってくるの。
声はそっくりなんだけど、姉妹だから似てんだと思って、ぼくは、いつ浅丘さんが来るのかなと思ってたんだけども、その人が、浅丘ルリ子さん本人だった。
当たり前だよね、ぼくを呼んでくれて出迎えてしゃべってる、なんでそれを妹さんがやるんだよ。
いまから思うと、緊張してたのかなぁ。

[糸井]
はははははは。

[横尾]
「浅丘さんだ」とわかりかけたとき、それをごまかすために、ぼくがなにしたかっていうとさ、部屋の中にハエが飛んでたんですよ。
そのハエを、ソファの上やテーブルの上やいろんなところに上がって、捕りはじめたの。
正直言って、メチャクチャになってるの。



[糸井]
メチャクチャだ(笑)。

[横尾]
メチャクチャになってる自分がよくわかってるんだけど、とにかく「ハエを捕ります」ということに夢中になることにして、とうとうそのハエを、捕りました。

[糸井]
ははは、すごい。

[横尾]
ハエ捕まえて、やっと落ち着いて対等に話ができるようになったの。
彼女としては、自分の家にお客が来てるわけでしょう。
そこで妹を出したり、そんなことするはずないじゃない。
家から出てきた、それらしい年頃の人は、本人だと思わなきゃいけないわけですよ。
論理的に考えるとわかるんですけども。

[糸井]
そうですねぇ。

[横尾]
それが考えられなかったんです。
それはもう、ぼくの能力だね。
人を識別する能力がないという証拠。

[糸井]
それは能力ですね。
オレは人のこと言えないんだよなぁ。
ときどき、失礼を承知で聞きますよ。
「なんのとき、最後に会いましたっけ」と。
「だれでしたっけ」よりもマシですよ。
それでずいぶんしのげますから。

[横尾]
「なんのとき」ね。
ふむふむ。
「だれだった?」って言われるよりはいいよねぇ。

(続きます。次が最終回!)


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