[一同]
(笑)

[糸井]
ロマンチックだけじゃなくて、いろんなものが表現できましたよね。
お屋敷の重厚感とかも(笑)。

[三谷]
そうなんですよ。
たとえば、あそこで、長澤さんがもう一歩前に出てくれれば、松本潤さんはあんなに顔を出さなくてもいいんだけど‥‥。

[糸井]
いや、歩み寄りがないところが、お嬢さんなんですよ。

[三谷]
そう、あれがいいんです。

[糸井]
いいんです。
「恋って、そうだろうよ」
っていう感じがするんですよ。

[三谷]
‥‥‥‥結果的にね。

[一同]
(笑)

[糸井]
あの、「総合芸術」。

[三谷]
まさに「総合芸術」です。

[糸井]
あと、ラブシーンでいうと、あそこもたまんなかったなぁ。
柴咲コウさんが
「抱いてください」って言う場面があるじゃないですか。

[三谷]
‥‥‥‥あれは‥‥ですね。

[糸井]
え! ‥‥「総合芸術」ですか。



[一同]
(笑)

[三谷]
あそこは、佐藤浩市さんが浮気をして柴咲コウさんがそれを知って、で、まぁ、佐藤さんが謝るシーンなんです。

[糸井]
はい。

[三谷]
正直、かなり悩んだんです。
そういうシーンを書いたことがないから。
男は、ああいう場合、なんと言って謝るのか。
そして女は何と言って許すのか。
男の方はなんとなく思いついたけど、柴咲さんのリアクションが出て来ない。
頭で考えるから、どうしても理屈っぽいセリフになってしまう。
で、どうしようかなぁと思って何回目かの、台本打ち合わせにま、とりあえず書いて持って行ったんですよ。

[糸井]
うん、うん。

[三谷]
当然、そこのセリフに関しては、自分でも納得してない。
それで、打ち合わせのときに、重岡さんと、もうひとりの、プロデューサーの大多さんに相談したんです。
柴咲さんに何を語らせるか。
で、この場にいない人のことを言うのはなんですけど、その大多さんというのがですね、なんというか、そういう場面に、たいへん慣れている人でして‥‥。

[糸井]
ああ、豊富な経験をお持ちの人なんですね。

[三谷]
すっごく経験してる人なんですよ。

[一同]
(笑)

[三谷]
その人が言ったんですよね。
語らせる必要はない。
「抱いてください」の一言でいいと。



[重岡]
そうですね、はい。

[糸井]
つまり、そこも三谷さんじゃなかったんだ。

[三谷]
僕じゃないんです。

[一同]
(笑)

[三谷]
いや、あれは僕には書けない。
思いつかない。

[糸井]
たしかに、「抱いてください」って、ありえないんですよね、ふつうの三角関係だったら。
ふつうに考えるとあそこはむしろ、
「抱かないでください」になるんですよ。

[三谷]
うん。

[糸井]
男は「ごめん」って言ってるけど、謝ることさえ腹が立つ、わたしに触れないでくださいってふつうはなるはずなので。
だから、あそこで「抱いてください」って言える人がいるとしたら、それはそうとう
「愛」の優先順位が高い人なんですよ。
つまり、プライドとか、常識とかじゃなく、
「愛」が重要だという人。
それを、正妻じゃなくて愛に生きている柴咲コウさんに言わせるというのがすごいなぁ、と思ったんですよ。

[三谷]
でもそれは、僕じゃなくて大多さんがすごいんですよね。

[一同]
(爆笑)

[糸井]
や、そうでしたかぁ(笑)。

[三谷]
つまり、糸井さんがいいと思ったシーンは、全部、僕じゃない。
ただし。ただし、ですよ、大多さんがそこで
「『抱いてください』はどうだろう?」
っていうふうに提案したとしても、それを採用するかしないかを決めるのは、僕ですからね!



[一同]
(爆笑)

[糸井]
ははははははは、そう、そうですね(笑)。

[三谷]
つまり、結果的には、僕が書いたのといっしょなんですよ。

[糸井]
いや、そうです、おっしゃるとおりです。
その通りですね。

[重岡]
(苦笑)
(つづきます)


前へ 次へ
目次へ
友だちに教える
感想を送る
ほぼ日のTOPへ