[南]
だいぶ好きだよ、セミが。
夜中にでかけるわ、佃煮にするわ、壁に抜け殻を一年中ぶらさげとくわ。

[糸井]
佃煮にはしてないよ。

[南]
とにかく、熱心だよ。

[糸井]
そうかな。そんなことないでしょ。
まぁ、いってみれば‥‥セミプロ?

[南]
言うと思ったけどね。



[糸井]
ともかくね、セミの羽化というのはなかなか神秘的なんだ。
夜中に地面を照らしてみると、穴から出てきたばかりの、こう、緑色っぽいような、黄色っぽいような、生命の重さと存在感のある抜け殻が地面を這ってるわけだよ。

[南]
抜け殻?

[糸井]
中身のある、抜け殻。

[南]
それ、中身が入ってるときは、抜け殻って言わないよ。

[糸井]
生抜け殻。

[南]
まぁ、いいや。わかるよ、言ってることは。



[糸井]
うん。それがね、木の根元をウロウロと歩いてるんです。
で、枝を照らすっていうと、多い場所ではひとつの枝に何匹も何匹もセミがつかまってる。

[南]
へぇー。

[糸井]
で、そこで、めいめい、セミになってね。
こう、羽を伸ばしたり、乾かしたり。

[南]
そうそう、あの羽は、乾かさないといけない感じだよね。
ヨレヨレのシワシワだもんね。

[糸井]
うん。
だから、真ん中にヨレヨレのセミがいて、まわりでほかのセミが、
「ふぅー、ふぅー」って吹いてるの。

[南]
‥‥ああ、そう。



[糸井]
ほかのセミが、「ふぅー、ふぅー」。

[南]
お互いにね、助けあってね。

[糸井]
うん。先に乾いたやつが、あとから出てきたヨレヨレを助けてあげるわけだね。
「オレもやってもらったからさ」って。

[南]
ずいぶん協調性があるね。

[糸井]
あるよー。
なんせ、土の下で7年も友情をはぐくんできたからさ。

[南]
ああ、そう。



(つづきます。おわりません)


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