第5回 奴隷の眠り、王様の眠り。

ただ、脳のスイッチを切って、いい状態で何時間かいれば回復するんだというような程度の認識ですから。
結果として、ゆうべは、これだけしか寝られなかったから、今日は借金があるんだというような感覚で、
「8時間寝なきゃいけない」なんて信じてる人は、そのやりくりに苦労すると思いますね。
それをうまくやれないと、それが心に引っかかってストレスを助長させてますます眠れなくなって、そういう悪循環にはまる。
現代の人は睡眠について関心を持って、いろいろ努力するわりには、まぁ、見当外れのことをしているのですね。

[糸井]
ある意味では、関心を持ちすぎてるとさえ言える。

[井上]
そうですね。

[糸井]
今のお話を聞いてるだけで、だいぶ、楽になりました。
何か、人間という観念的などこにもいない観念を一つ、つくって、その人間というもののさらに理想形をつくって、それに当てはまるか、当てはまらないかを測るということを、現代人というのは、盛んにいつでもやっている。
話が、はずれてしまいますけど、この間、コンドームメーカーが行なった、世界の人類がどのくらのセックスをしてるか、という調査がありました。
そうしたら、日本人は、ほんとに少ないと、世界的に言われてるらしいんです。
余計なお世話だと(笑)。
つまり、そこで平均像を出すということのバカバカしさというのは、性のことにしてみると、機会が均等に与えられてませんから、余計なお世話だって言いやすいんですね。
でも、睡眠は、みんな毎日寝るものですから、つい平均像があるのではないかと思ってしまうのでしょうね。

[井上]
そうなんですね。
それで規格化して、まぁいわば、理想的な数値みたいなことを出してしまうんですね。
ちょうど、身体検査、健康管理で、血圧がいくらだの、悪玉コレステロールがいくらだのと同じことで。

[糸井]
やりますねぇ。

[井上]
あれはある程度の根拠があるでしょうけど、それと同じような発想で、この幅でなきゃ、まともな人間でないと、これから外れると病気だというような、そういう捉え方を睡眠に当てはめてるわけですね。
睡眠は、そんなに厳密に当てはめられないところが、睡眠の睡眠たる特性なんですよ。



(つづきます。)


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