「人工島戦記」が 熱気を発する理由

神田ポートビルで開催中のフェニックスブックスフェア2日め最初のトークは、ホーム社の遅塚久美子さん。
今年の出版界最大級の事件といえる橋本治さんの『人工島戦記』ができるまでの裏話を聞かせていただきました。

この未完の大著が紙の本で刊行されると初めて耳にしたとき
「暴挙か?」と思うと同時に、橋本さんのお通夜の席でお会いした遅塚さんのお顔を思い起こして
「あの人ならやりかねない」
と思ったそうです。

眠っていた橋本さんの手書き原稿が本になるまでは、
こちらのトークをあわせてお読みいただくとして、トークでは語られなかった装丁家・川名潤さんによる装丁の意図
(バブルの名残のある1990年代、架空の市役所が公共事業としてふんだんな予算を使って市史を作ったら架空の印刷会社は、フカフカな紙を使って金箔なんか押しちゃうだろう、という想定で、それを上品な紙で作った)や、試行錯誤の末、細かい文字の金箔がきれいに押せたので、ナカヤマ紙工株式会社さんが会社に飾ったというエピソード、こんなに厚いのに、きれいに開ける加藤製本さんの技術など、ふだん耳にすることのない本造りの裏話を聞くことができました。

そんな話を聞いては、
「まさに血と汗と涙の結晶だからこそ、本そのものが熱気を発している」と評していました。

その結晶を実現させた橋本治さんの精神、この本にかかわったすべての人の
「人工島同好会」精神ともいうべき文化祭的なノリ。
それこそが、橋本治さんがあらゆる作品を通して伝えようとした
「一人で抱え込まないで、みんなで共有すればいいじゃない」
というメッセージなのではないかという遅塚さんの言葉に心から賛同しました。

橋本治さんと一緒に架空の「都立魔界高校文芸班」の一員として『恋するももんが』を作ったことで、
「会社員として『枠をはずしていいんだ』と思えた。はずしたところで私は私。
そう思って、暴挙に挑む自信がついた」
という遅塚さんの言葉は、多くの人に響く言葉だと思います。
ぜひ中継アーカイブでご覧ください。

このあと3時と6時にもトークがあります。
お宝本もまだまだたくさんあります。
「ネコのライオン堂」には追加入荷もありました。
ご来場お待ちしています。

2021/10/30 12:47

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