2段重ねのケーキのような 濃厚な講義

ほぼ日の学校Hayano歌舞伎ゼミ第6回の今宵のテーマはビジュアルから迫る歌舞伎でした。

前半講師はイラストレーターにして、
「歌舞伎にすと」の辻和子さん。
ずばり、歌舞伎においては、
「人は見かけでわかります」と、まげの形や、衣装の色や素材、帯の結びや着物の柄など、ひとつひとつがどれほど雄弁にその人物の身分や境遇、人柄や生活環境を物語るかを美しいイラストの数々とともに説明してくださいました。

助六のタビはなぜ黄色なのか。
長年歌舞伎を観てきたも、目からウロコを落としていました。

でも、その本題の前に、わたしたちの記憶がどれほど曖昧かを思い知るために、辻さんがいきなり受講生に課した課題が記憶スケッチ。何も見ず、記憶だけで武士と姫を描いてみましょう、というもの。
辻さんが「お手本」として示したのが、ご自身が記憶で描いた「あしたのジョー」。
イラストレーターとしてのキャリアを台無しにしかねないこの記憶スケッチをモニターに映し出してくださったのです。
一方、受講生のみなさん、かなり優秀でした。

それにしても、
「飛脚の忠兵衛」の着物の縞の細い黒と赤と青がどういう配分かで、その役者さんがどんな役作りを目指したかがわかるというのは、本当に驚きでした。
こんな歌舞伎の観方があるのかと、新しい発見ばかりでした。

そして休憩のあと、後半は、歌舞伎の舞台写真を撮影して55年の福田尚武さんの講義でした。
冒頭のひとことに、福田さんの人柄と仕事ぶりがすべて凝縮されていました。
「9割以上捨てる写真を撮っています」

月の半分、毎日歌舞伎座に通い、1階、2階、舞台裏から‥‥と、さまざまな場所から舞台の写真を撮影し、1万を超えるカットのなかから何日もかかって選びに選んだ写真を役者さんに選んでもらうと、販売用に残されるのは、ほんのわずか。
だから、9割以上は「捨てる写真」と謙遜しておっしゃいましたが、それでも残る写真があるのが、実はすごいことだというのが、お話を聞くうちにわかります。

舞台写真家になったきっかけから、17代目、18代目勘九郎さんに導かれた写真家の道。
本当に自由に撮影できるきっかけとなった玉三郎さんのななめ後ろの写真と言葉。

ひとつひとつのエピソードから、病気による両足切断という危機を乗り越えて、いまも舞台写真を撮りつづける写真家の歩みが実感を伴って伝わってきました。

こんな贅沢な講義の夜に、もうひとつ華を添えてくださったのが河野文さんの三味線。
お友達の辻さんの応援に来てくださり、生演奏を披露してくださいました。
なんとも豊かな時間をみなさん、ありがとうございました。

2018/10/23 22:55

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