第9回 あたりまえのことをやってきた。


[斎藤]
我々の本当の願いは、手づくりをおいしくしたいというところなんです。

今のお母さん方ってすごく大変で、本当においしいものが簡単にコンビニとかスーパーで手に入るようになってきちゃってます。
冷凍の炒飯なんかもすごくおいしくて、なかなかあんなにパラパラにできないですよ。
そういうものとお母さん方が勝負しなきゃいけなくなっています。
「ママの餃子より冷凍のほうがおいしい」
と、子どもが思ってるかもしれないです。
でも、いい材料でつくれば、子どもや旦那さんが、
「お母さんのがいちばんおいしい」って言ってくれるかもしれないですよね。



[糸井]
うん。

[斎藤]
今、クオカには25万人くらいお客さんがいらっしゃって、リピート率が80パーセントぐらいです。
それは、我々がすごくいいサービスをしたりいい商品を提供してるというよりも、本当にご家族やご本人が、おいしいと思ったからだと思います。

クオカがよく知られるようになったといっても、今はまだまだ、
「趣味はお菓子づくりです」という方か、セミプロの方にしか知られていません。
まだ、店舗も東京だと自由が丘と新宿だけ。
全国でたった4店舗しかありません。
銀座で100人に聞いたら、クオカを知ってる人は1人か2人でしょう。
これからは、そうじゃない人にどうアプローチしていくかが課題です。

[糸井]
もっとかんたんにお菓子に近づけるといいですね。

[斎藤]
そうなんです。
今、クオカでわりと売れてるのは冷凍パン生地です。

[糸井]
わ、そうなんですね。

[斎藤]
発酵寸前の生地が冷凍してあって、冷蔵庫に移すと発酵して、次の日オーブンで焼くと、焼きたてのクロワッサンができる。

[糸井]
それはいいね。

[斎藤]
本当は我々も手ごねでパンを焼くほうが冷凍よりもおいしくできると思っています。
でも、全ての人にそんな時間はありません。
たかがパンされどパンですけど、やっぱり「しょせんパン」、主菜があってのパンなんです。
パンにそんなにエネルギー使ってくれればいいけど、そうじゃありません。
冷凍でちょっと手を加えておいしいパンが焼けるんならそれも提案すべきだと思ったんです。
そういう人たちは、そのうち自分でやってみようと思ってくれるから。

[糸井]
両方あってかまわないですもんね。
その辺の柔軟性みたいなものがなくて、趣味の世界って、ついセクト的になっちゃいますから。

[斎藤]
ええ、そうなんです。最初はスタッフに
「そんなのクオカでやる意味がない」
「あんなのパンじゃない」
って、反対されたんですよ。
でも、共稼ぎのお母さんも、子どもたちも生地をのばしてこねる、そのプリミティブなたのしさを味わうことができるから、と。



[糸井]
子どもが、どういうわけだか手巻き寿司だと食いますよね。
それとおんなじ。

(つづきます)


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