[ほぼ日]
はー‥‥。このスケッチがそのときのアイデアですか?



[田中]
ええ、これは、針がくるんと回転するアイディア。

[ほぼ日]
針が、中にしまえるんですね。

[田中]
刺すときは、まず針先をカベに引っかけて、くるっとまわして針を出し、ぐっと押し込む。
で、抜くときも、テコの原理が効きますから、簡単に抜ける。

[ほぼ日]
これは、商品化は‥‥?

[田中]
しませんでした。

[ほぼ日]
ははあ。こっちの丸形のは、別案ですか?



[田中]
そう、これは2本針のタイプですね。
カベに押し付けながら画びょうじたいをまわすと、二股の針が出てきて、刺さるんです。
で、抜くときは、反対にまわせば、針が引っ込む。

[ほぼ日]
つまり、カベに刺さってないときは針が引っ込んでいる状態、ということですね。
なるほど。これも商品化は‥‥?

[田中]
しませんでした。

[ほぼ日]
あの、そういう試行錯誤のなかから生まれたのがさっきの「プニョプニョピン」なわけですけど‥‥。

[田中]
そうです。

[ほぼ日]
これら商品化されなかったアイディアとは、どこが、ちがったんでしょうか。

[田中]
まず「画びょう」だっていうことが直感的に、わからないですよね。
その、ボツになった2案の場合には。

[ほぼ日]
ああ、たしかに!
でも、わからないと‥‥何がダメですか。

[田中]
まず売れないでしょうね。

[ほぼ日]
あ、そうか。

[田中]
それに、危ないと思うんですよ。
いくら針が隠れているからとはいえ、画びょうであることが、直感的にわからないと。



[ほぼ日]
ああー‥‥危ないからといって針を見えなくしちゃったら、逆に危ないんだ。

[田中]
みなさん、画びょうのかたちって
「だいたい、こんなもんだ」というイメージを持っていますでしょう。

[ほぼ日]
ええ、もう1種類しか知らないですよね。

[田中]
それを、極端にちがったかたちにしてしまうとこれは針でカベに留めるものだし、刺さって危ないものだと、警戒できませんよね。

[ほぼ日]
つまり‥‥テコの原理で抜きやすいとか、機能的に優れていても、見ためから、本来の「刺す」という機能がイメージできないと‥‥ダメだと。
売れ行きとしても、製品としても。

[田中]
その点「プニョプニョピン」のアイディアは
「何をする道具か」が、すぐにわかる。

[ほぼ日]
たしかに、そうです。

[田中]
画びょうであるという「見ため」はそのままで、ゴム製のカバーをつけ、安全性を高めました。

[ほぼ日]
さらに「抜きやすい」という便利さもプラスして。

[田中]
僕、大学が機械系の出身だったんで、個人的には、ボツ案のほうが、好きなんですよ。
堅くて、角張ってて、ギミックがあって。

[ほぼ日]
へぇー‥‥。

[田中]
逆に、採用案みたいにフニャフニャしたものはあんまり信用できないというかね。

[ほぼ日]
ええ、なるほど。おもしろいですねぇ(笑)。

[田中]
でも、スケッチの段階では、ボツ案がいいって言ってくれる人もいたんですが、実際、サンプルを作ってみると圧倒的に「プニョプニョピン」のほうが評価が高かったんです。

[ほぼ日]
はぁ。

[田中]
モノになったときの説得力がちがいました。



[ほぼ日]
なるほど。

[田中]
その「プニョプニョピン」という名前もね、積極的な理由があって、つけているんです。

[ほぼ日]
プニョプニョしてるから‥‥じゃないんですか?

[田中]
いや‥‥プニョプニョしてるからなんですが、そのプニョプニョしてるんだということを、あらかじめ、わかってもらいたかったから、つけたんです。

[ほぼ日]
なるほど、それも、さっきのお話と同じですね。
従来の画びょうのイメージってぜんぜんプニョプニョしていない‥‥というか、まったく、その逆ですもんね。

[田中]
お店で売ってるときにはプラスチックのケースに入っていますから、まさか、こんなにプニョプニョしてるとは思わないかもしれない。

[ほぼ日]
だから「プニョプニョ」を、名前につけたと。

[田中]
ええ、それまでのコクヨ製品は、わりと質実剛健なネーミングが多かったんですが、あえて「プニョプニョ」と。

[ほぼ日]
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