[中島]
あるでしょうね!
わたし、人の顔、よくわかってないですから。
目鼻立ちってね、あまりわかんないんですよ、男の人の。

[糸井]
いやあ、おもしろいなあ。

[中島]
だから、服変わると判別できないんですよ(笑)。
いくら惚れた腫れたといってもね。あははは。

[糸井]
それは、観念に行かざるを得ない、ということも言えますね。

[中島]
言えますねー。

[糸井]
観念は頭ん中でいくらでも遊べますもんね。

[中島]
あとは、声で人を探してますから。
だから、待ち合わせの場所に黙って立ってられたらわかんない(笑)。

[糸井]
ここだよォとか。

[中島]
そうそう。

[糸井]
それほど聞くことを大事にした人生を送ってきたんだね。

[中島]
そうなんです(笑)。うふふ。

[糸井]
だから、歌い手になったのは天職ですね。
だけど、無口な彼とはつきあえない。

[中島]
残るは体温かな(笑)。
「あったかーい! ここにいたのね!」みたいな。

[糸井]
爬虫類みたいだね(笑)。

[中島]
中島、爬虫類っすか?!

[糸井]
爬虫類は、自分の体温を上げるために、温度の高いところに寄っていく習性があるらしい。
亀でも体温を求めて人間の膝の上の乗ってくるそうだし。
親亀の背中に子亀を乗せてってあるでしょ。
あれも暖かい太陽の光を求めた亀が、自然に積み重なっちゃうんですよ。

[中島]
ひなたぼっこしてるんだ。

[糸井]
だから上に乗っている亀にしたら、誰かの上に乗ってるつもりはなくてね、ただの岩の上にいるつもりじゃないのかな。

[中島]
勉強なるなあ。
まさに亀の甲より何とやら(笑)。

[糸井]
だから、中島みゆきも実はそういう人間なんだ(笑)。

[中島]
わははははっ。

[糸井]
忘れてたけど、今いきなり思い出しました。
“愛は温度”という文章を書いたことがありますよ。

[中島]
それすごく納得できます。
もっと平熱を上げよっと(笑)。

[糸井]
落語で、夫婦喧嘩の仲裁に入った仲人が、なんでお前はあんな男と結婚したんだって聞いたら、女房の方が、
「だって寒いんだもの」って答えたという。

[中島]
ああ、わかります(笑)。

[糸井]
うふふふ。生命体そのものの叫びですよね。

[中島]
はいはいはい。そうです。
細胞ってあったかいわよねーって。

[糸井]
そうそう! なまじ、よく見えるから、余計な情報に捕らわれてるのかもしれないね。
耳で立派な身なりの人を聞き分けることってできないものね。

[中島]
できないですねー。

[糸井]
そうすると、言葉が大事になりますよね。
わかんないことを言う人のことはどうでもよくなる。

[中島]
ふふふ。難しいことは聞き取れないけど、声音っていうんですかね。
そういうのを聞こうとしてるのかもしれない。
声の温度とかね。

[糸井]
うわあ、おもしろいー。
みんながそう生きたらもっと楽になるのに。

[中島]
あははは。

[糸井]
つまり、目利きとかっていう人はさ、価値の差がわかる人のことでしょ。

[中島]
うんうんうん。

[糸井]
でも、その差って、実はよくわかんないものじゃない。

[中島]
うんうん。

[糸井]
そうすると、難しいこと言って価値の差をあらわそうとするけど、いやあ、難しくてわかんないねえーってなっちゃうじゃないですか。
でも、あなたの声はよくわかるっていうところでなら、その人を理解できる。

[中島]
はい。

[糸井]
やっ! 自分もそれでいこう。

[中島]
あははは。

(つづきます!)


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