[糸井]
はははは(涙)。



[黒柳]
あのとき、向田さん、もう50歳ぐらいにはなってたのかしら?
50前かもしれないけど‥‥あいさつで、いきなりですから。

[糸井]
はははははは(涙)。

[黒柳]
でもね、いやらしくはないんですよ。
何を思ってそう言ったかはわかんないんですけどね。

[糸井]
はぁああああ〜。

[黒柳]
そういうことがいろいろあったんだけど、向田さんが事故で亡くなって20年目のとき、ご家族がうんと親しい人だけお呼びになって東京会館で、パーティを開いてくださったの。
「お花をくださる方もありますけど、 もう20年経ちますので、 もう向田邦子のこと、結構です、 お忘れください」
って。

[糸井]
なるほど。

[黒柳]
そのとき、ごあいさつが森繁さんだけ、ってことになったのね。

[観客]
(ざわざわ)

[糸井]
また‥‥。

[黒柳]
何を言うかな? と思ったら、こうですよ。
「向田くんとあたしが、 いろいろあったという 噂がありますが、 それはほんとうにないです。
 ここで誓って言いますが、 ほんとうにないです」

[糸井]
はははははははは。

[黒柳]
ねぇ‥‥フッ(笑)、この人、また何言ってるのかわかんないわね、と思ったわけですけど、会が終わってから森繁さんに
「ねぇねぇ、ほんとほんと?」
って訊いたら、
「ほんとだよ」
って。
向田さんとは、誓って何もないって(笑)。
「でもあれは、そうだよ」
と、こっそり指差すわけですよ。
「あれもそう、あれもそう、あれもそう」
その会、女優さんがすごく多かったんです。

[観客]
(笑)

[黒柳]
それがあんまりウソでもなさそうなのよ。

[糸井]
はぁああ〜(笑)。

[黒柳]
テレビがはじまった頃、
「テレビに出たい、映画に出たい」
と、森繁さんを通して言ってた女優さんは、みんな「そうなってる」という噂は聞きました。
でもまぁそんなことはな、ないよな、と思ってました。

[糸井]
ははははは。

[黒柳]
向田さんの死後、
『向田邦子の恋文』という本を向田さんの妹さんがお出しになりました。
それを読んだら、その時期、向田さんには恋人がいて不倫です。
しかも、その恋人が亡くなったとかいろんなことがあって森繁さんと、なんだかんだいってるような状況ではほんとになかったと思います。

[糸井]
なるほど。

[黒柳]
森繁さんはやっぱり、ウソはついてなかった。
ですから、
「いつも森繁さんはわたしに 一回どう? っておっしゃいますけど、 それは絶対に、何があっても、 忘れないでくださいね」
と言っておきました。

[観客]
(笑)

[黒柳]
一回どう? っておっしゃるのは、そのままおつづけください、もう、言っていただいたほうがいいですから、つまりそれは、これだけ長くご一緒してなんにもないってことですから。

[糸井]
ええ。

(つづきます!)


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