それから、私は糸井さんとの距離がすごく近づいたような気が、勝手にしてました。
[糸井]
それはもう、まったくそうです。
あのね、人に、自分の考えをまとめてしゃべらなきゃいけない機会ってそんなに何度もないんですよ。
交渉したり、営業したりするときにプレゼンテーションの場っていうのはあっても、それはやっぱり成績のためにすることだから。
そうじゃなくて、思ってることをとにかくぜんぶ伝えたいんだっていう、子どもっぽいくらいの欲望をぶつけ合える場というのはそんなにはないんです。
だから、ぼくは、岩田さんが
「お願いがあるんです」ってやってきたときに、そういう場にきちんとしなきゃって思ったんです。
つまり、なんだろう、ぼくも岩田さんも、根っこのところで共通しているのは、照れながらでも別に生きていけるんですよ。
違う言い方をすると、人の気持ちをわかる人ほど照れずに生きていくのはむつかしいんです。
だけど、「照れてる場合じゃない」っていう場面が生きているとときどきあって、そのときは、岩田さんがその場面をつくったんですよ。
それはね、やっぱり学生にはなかなかできない。
わけても当時の岩田さんは、ぼくよりも年下だったけれども社長でしたからね。
社長じゃなければ、あれはできない。
たとえば岩田さんがただの技術者だったときに、
「ぼくは仕事をこう考えるんです」なんて誰かに言ったことはないでしょう?
[岩田]
ないです、ないです。
いや、それどころか、ああいうふうに自分の仕事観をほかの人に語ったのははじめてだったかもしれないんですよ。
だから、当然、練習もしてないし、パワーポイントがあるわけでもないし、やり直しがきくわけでもない、1回きりの勝負で‥‥まぁ、だから、愛の告白といっしょかもしれない(笑)。
[糸井]
いや、近いですね。
だって、仲間を結成したいっていうプロポーズですから。
[岩田]
そうです。
あれはプロポーズなんですよ、構造として。
[糸井]
そうですよね。
だから、仕事をするときの仲間を選ぶときに
「大切にしてきたこと」を訊くというのもまったく同じことで。
[岩田]
そうです、そうです。
私と糸井さんのおつき合いが続いてる理由も、
「大切にしているもの」が非常に近いからなんです。
私がそのプロポーズを表現したときに、糸井さんが心から「オレもそうだぜ」って答えてくださったから関係が続いてるんですよね。
[糸井]
そうですね。
そうか、思えばあれは、岩田さんとそんなに長くつき合っていない時代のことだったんですね。
[岩田]
そうなんですよ。
まだまだつき合いの浅い時期で、たぶん、お互いの詳しいことは、よくわかっていなかったころなんです。
[糸井]
でも、あれですね、あのときは、面接をしたわけじゃないんだけど、面接で訊きたいような話をけっこういっぱいしたような気がする(笑)。
[岩田]
(笑)
(続きます)
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