いいものリレー

3人めのゲスト
山本 祐布子さん(イラストレーター)
プロローグ薬草園での、あたらしい暮らし。

「いいものリレー」、
料理家の内田真美さんがバトンをつないでくださったのは、
イラストレーターの山本祐布子さん。
広告やプロダクトデザインのお仕事をされています。
ほぼ日でもたびたびご登場いただいています。
「とってもすてきな環境」と、内田さんが話された、
そのお住まいに、おじゃましました。
そこは、もともと薬草園だった敷地にあるおうち。
夫である蒸留家の江口宏志さんと
ふたりのお嬢さん、犬と猫とともに暮らす、
ちょっとふつうじゃない、すばらしい場所へ。

ゲストキュレーター山本 祐布子(やまもと ゆうこ)
イラストレーター。
雑誌や広告、プロダクトデザインの
ディレクションで活躍。
現在はイラスト仕事の他に、
千葉県房総半島にあるmitosaya薬草園蒸留所で
日本全国の優れたフルーツやハーブを用いて、
蒸留酒を作る。
ジャムや、お茶など
ノンアルコール部門を主に担当。

薬草園の施設をDIYで「家」に。

――
今日はよろしくお願いします。
すてきなところですねー。
江口
ここは千葉県立の薬草園だったところなんです。
30年以上前に作られたんですが、
建物と施設が市に払い下げられて、
町が地元の大学の薬学部に運営委託して、
その後2015年で閉園してたんですね。
そこを、2017年から借り受けています。
――
敷地ごと、施設も全部、借り受け。
敷地の入口。

門も立派です。
江口
住まいにしてる建物は、大学の施設だったんです。
90年代くらいにできたもので、
大学ですから授業をやってた研修室、教室とか
事務所、給湯室、っていう、
まあ住居用とはいえない建物ですね。
――
お。わんちゃんが出てきました。
この木の扉、手作りっぽいですね。
江口
自動ドアみたいなのがあったんですよ。
家って感じがしないじゃないですか、それだと。
――
そうですね。何かの施設のような。
江口
自動ドアの手前に、後から木の扉をつけて。
上なんかスカスカなんですけど。
でもいいんです、
ちゃんと元のガラスがはまってるんで。
山本
もとの骨組みというか、構造はそのまま。
だからちゃんと閉まるんですよ。
――
中にはいると、あ、天井が高くて。
吹き抜けになってるんですね。
入ってすぐに、ピアノが。
このスペースにきれいに収まってます。
江口
実家で眠ってたピアノですね。
なぜがぴったり入ったんですよ。
――
ここに住むにあたっては、
ずいぶんリフォームされたんですか?
江口
そうですね。一階にはトイレが3つあったんです。
男子、女子、バリアフリーみたいな感じで。
でも家に3つもトイレいらないので、
1個だけ残して、ひとつをお風呂にして、
お風呂にするときに解体したトイレのパーツで、
残りのもうひとつにクローゼットを作って。
――
え! 江口さんがご自身で?
すごい。
江口
そうそう。見ます?
――
なんか、すみません。ずかずかと。
山本
江口さん、いつも、
自分のやったDIYを、見せたいみたいで。
――
わかります。
大変なところほど話したいでしょうね。
山本
そうそう。
ディテール、話したいですよね。
――
江口さんって、DIYされるタイプだったんですか?
山本
ここに引っ越してから開花して。
――
ここに来てから。
素材がたくさんありそうですもんね。
山本
DIYもそうですし、
例えば何かが故障したりしても、
ここまで直しに来てもらうのも大変で、
やっぱり自分で何でもやらないと、みたいな。
そういうふうな気概で。
そしたらだんだんうまくなっていって。

研修室が事務所やアトリエスペースに

山本
一階の奥は、今は、事務所とか
MITOSAYAの商品出荷のために使っています。
――
わあ、奥行きがあるんですね。
奥には黒板も。
江口
ここで授業や研修をしてたんだと思うんですよ。
そこに作業台を作って。
――
戸棚なんかは、あったものをいかして?
江口
そうですね。
ほかの建物にあった展示用の棚とか台とか、
全部ここへ持ってきました。
――
使えるものは使って。
学校の理科室、実験室の感じが
ちゃんと今の用途にマッチしてますよね。
山本
ここまで来るのに5年かかったもんね。
使うところからちょっとずつ整理して。
それがだんだん広がっていった感じです。
――
奥のほうにデスクがありますね。
由布子さんのアトリエ、仕事場ですか。
山本
はい、手前は子どもたちの場所になっていて、
奥はわたしです。
今はいろんな仕事が忙しくて、
絵を描く時間はほとんどない感じなんですけど。
――
窓から木が見えて、
すてきなスペースですね。
家具はもともと持ってらっしゃったものですか?
山本
家具は、そうですね、そうそう。
木のものはだいたい私が持ってたもの、
ひとり暮らしのときに使っていたものを
ずっと使い続けてきてますね。
機材っぽいものは、ここにあったものです。
――
ペンを入れてるのは、ここにあったものですか?
山本
そうそう、ビーカー。
こんなふうに使ってます。
なーにもかも置きっぱなしでした。
使えるものはこうやって使わせてもらってます。
――
山本さんも、蒸留所のお仕事は
やられてるんですか?
絵を描く時間と家事と‥‥。
山本
そうですね。色々やっています。
蒸留して出てきたもろみを利用したものを
作ったり、ジャムとか。
今は加工作業のほうが忙しいから、
1週間のうちにやっと1、2回ぐらい、
ちょっとまとまって時間を取って、
絵をすきまで描いてるって感じですね。

ここにあったもの、ずっと使っているもの

――
今度は2階を見せていただきます。
ワクワクしますねー。
螺旋階段で、本棚がカーブにそって作られてます。
山本
階段も、ずいぶん広いんですよね。
こんなに奥行きいらないよねって、
じゃあここに本棚作ろう、って言って。
――
これも江口さんのDIYなんですか!
階段に合わせてあって、底が浮いてます。
どうやって作ったんでしょう。打ち付けてる?
山本
箱状のものをいくつも作っておいて、
放射状に柱を付けて、それに打ち付けていく。
――
へー!
山本
2階にあがると子ども部屋があって。
――
奥がキッチンとリビングですね。
調理カウンターと、大きなテーブル。
山本
このカウンターは棚で作ったんですよ。
2段の棚をバラして並べて、
天板はモルタルを流して。
――
えっ! これも江口さんが?
すごいなぁ。
山本
この建物、ガスが通ってないんです。
だから熱源はIHと電熱グリルなんですけど、
これでもけっこう使えますよ。
テーブルは、私がずっと前から使ってたものです。
それに長さを足して、この大きさにしました。
――
ここにあったものや、以前から持っていたもの。
引っ越したからといって何もかも新調せずに、
今あるものを大事に使い続けていらっしゃるんですね。
山本
シンクのあるスペースの棚も‥‥。
――
すごくいい食器棚ですよ。
これも、ここにあった?
山本
そうですそうです。
こんな大きなもの動かせません。
たぶん、書類棚だったみたいですね。
――
なるほど。
家庭の食器が入っていても、違和感ないですね。
山本
色も塗り替えてないんです。
――
このオープンシェルフ、
もしかしてこれも、江口さんのDIY?
山本
これも作ったんです。フフフ。
板をホームセンターで切ってもらって、
棒は、建築資材かなにかの、杭。
――
へー、それを組み合わせて。使いやすそうです。
グラノーラとかお茶とか、
朝食のものがサッと出せて、しまえる。
山本
こっちの、細かい引き出しがついてるのは、
ここにあったものなんですよ。
薬棚といって、薬専用の収納だったみたい。
――
へえ、おしゃれな家具に見えます。
キッチン周りのビンやツールみたいなものも、
ひとつひとつすてきな雰囲気ですが、
どういうところで手に入れたものなんですか?
山本
若かったころは、2年に1回とか毎年くらい
どこかに旅行してて、その時に必ず蚤の市に。
でも、今はもう全然行けてないです。
――
やはりそうでしたか。そのムードを感じました。
山本
なので、前に買ったものをずっと使ってるような感じ。
今は新しいもの買い足したりっていうことも
あんまりないですかね。
――
どれも長く使ってらっしゃるんですか。
山本
そうですね。そう、この鍋も。
15年くらい使ってるかな。
料理家のお友だちから譲り受けて。
15年、20年使ってるもの、多いですよ。
――
そこに、祐布子さんの作品もあって。
ここに前から置いてあったものと、
それを作り替えたもの、
以前から使っていて持ってきたもの、
それからDIYのもの。
それぞれにしっくりなじんでいます。
ここに住んで5年半。
これからの計画はありますか?
山本
そうですねぇ。
今は忙しすぎちゃって、時間があんまりなくて。
ゆっくり考えたら、
いろいろ気になってくるところもありますけど。
――
やろうと思えばいくらでもできそうだし、
でも今のこの感じもいいし。たのしいですね。
山本
そうです、そうなんです。
この状態を一応キープして。
いろんな不便なこととか、
ちょこちょこあるじゃないですか。
そういうものは日々少しずつ、
DIYも活用しながらやっていく感じですね。
ここにいると、やることが無限にあるんです。
――
わくわくします。
ご案内をありがとうございました。
ではさっそく、山本さんの「いいもの」を
ご紹介いただきましょう。

(次回、山本さんの「いいものリレー」がはじまります)