いいものリレー

2人めのゲスト
内田 真美さん(料理研究家)
プロローグ足しながら
ゆったりと暮らす、
気持ちのいい家。

「いいものリレー」、
1人めのゲスト長野陽一さんから
バトンをわたされたのは、
料理研究家の内田真美さんです。
内田さんは、料理やお菓子などのレシピ本を出されたり、
いろいろなお仕事で活躍されており、
本に出てくるお菓子はそれはそれは美しく、
うっとりする世界観。
長野さんが「ステキなお宅」という
内田さんのおうちには、
バトンをつないだ長野さんにも
撮影隊としてご参加いただきました。
都内の住宅街にある一軒家におじゃまします。

ゲストキュレーター内田 真美(うちだ まみ)
料理研究家。
長崎県出身。
幼少のころから食に興味を持ち、料理家の道へ。
シンプルで美しく、おいしいレシピの著書多数。
また台湾やお茶文化にもくわしく、
台湾のガイドブックも執筆。

住みながら、足していく家

――
今日は、よろしくお願いします。
わあ、すごく広くて、明るいですね。
ここは、2階ですがキッチンダイニングですか?
お茶でおもてなしをしてくださいました
内田
そうですね。
リビングでもあるので、LDKです。
新築するときって、
建築家さんと図面上で決めていくじゃないですか。
だけど、住んでみないとわからないので、
「足せる家にしたい」っていう話をしたんです。
――
「足せる家」‥‥、なんか聞いたことのある響きが。
内田
住んでみてから、
いろいろ足していきたいなと思って。
バトンをいただいた、長野さんとまったく一緒です(笑)。
長野
そうだったんですね。
内田
ほんとに一緒で。
足せる、っていうことと、
なるべく、ガランとした家がいいなと思って。
細かく区切っちゃうと、お掃除も大変ですし。
すっきりと、広く暮らしたかった。
うちは1階も1部屋なので、1LDKなんです。
土地がそんなに大きくないですし。
――
ああ、下も1部屋なんですね。
1階と2階、同じ面積なんですか。
内田
そうです。
1階は、軽い仕切りになるようなクローゼットを
建築家さんが設計してくれたので、
それを間仕切りみたいな感じで使っていて。
――
1つの部屋を、クローゼットで区切る。
内田
ベッドが置いてある部屋、
クローゼットがメインの部屋、
子ども部屋という3つに分かれてはいるんですけど、
壁はない。
建築家さんが言うには、
「壁を足すのはいくらでもできます」って。
――
え、あとから足せるんですか?
内田
そうなんですよ。
部屋は広いほうがいいと思っていて。
お掃除もしやすいし、明るいし。
私たちも広くスカッとした部屋で過ごしたくて。
敷地が広ければ別ですけど、
この面積でなるべく広めにということになると、
この方法しかない。
中は住んでみないと、
どういう動線で動くかもわからないですよね。
あと歳も重ねていきますし、
その時々で変えられるようにと思って、
設計をお願いしました。
――
なるほど。
建てるときに、決めなくちゃならないと思ってましたが、
変えていけると思うと、ちょっと心に余裕ができますね。
内田さんは料理研究家ですから、
お仕事がしやすい環境ということも考えられたんですか?
内田
あ、それは‥‥意外と、そんなになかった。
――
なかったんですね(笑)。
内田
はい。
キッチンははじめ、アイランドタイプを提案されたんです。
でも土地に引かれてる配管や接続の問題があって、
ガス管と水道管は壁側に寄せたほうがいい。
ということになって。
あと、アイランドは部屋が狭くなるんですって。
――
えー、そうなんですか?
内田
そうらしいんですよ。
長野
うん。うちも、それは言われましたね。
内田
それとアイランドは、配管を下に通すので、
故障するとけっこう大変らしくて。
そんなわけで、キッチンも、1階のお風呂場も、
水回りはすべて、壁に寄せてあります。
――
知らないことばかりで、
家を建てるあるあるをうかがうのが、
おもしろいです。

古い家具にアイディアを足す

――
この空間でまず目につくのが、
やっぱりこの黒い家具です。
作業台と呼べばいいのでしょうか。
内田
この作業台は、やっぱり仕事柄ですね。
でも造り付けじゃないんですよ。
ここに最初からつけてしまうと、
実際に住んでみてどうかわからないので、
住みながら、あとから加えたものです。
古い家具を探しました。
――
まるではじめからあるみたい。
骨董かなにかですか?
内田
そうです。
――
雰囲気が、長野さんのキッチンと似てますよね。
長野
そう、考え方もうちと一緒です(笑)。
内田
ですよね。
読んでいて、まったく一緒だと思いました(笑)。
――
続編みたいになってきましたよ(笑)。
「足していく」人たちですね。
内田
もともと住んでいたのが、
古いマンションだったんですけど、
そこには古い家具を置いてたんです。
この家は、建築家さんが
造り付けもデザインしてくださったんですけど、
新しい家に、新しい造り付けの家具だと、
もうピカピカにピカピカで。
いままで持っていた家具との波長もなんかちがうし。
長野
うんうん。そうだよね。
(カシャカシャとシャッターを切りながら)
内田
家具は自分で選んだものを足したい。
なので、古い家具を探して。
天板はオーダーで、大理石を切ってもらいました。
――
古い家具を、さらにアレンジしている。
内田
裏側にはスチール棚を合わせてあります。
オーブンとかが入るようにしたんです。
――
裏側、拝見してもいいですか?
内田
どうぞ、どうぞ。
裏側にはスチール棚。サイズもピッタリです。
――
なんと、こっち側はすごい実用的ですね。
内田
スチール棚を、高さを合わせて。
やっぱり、たくさんある道具を収納したいし、
作業台はどうしても広さがないと。
で、表側は他の物と調和してるんですけど、
裏はかなり実用的になってます。
上には、お茶の道具がたくさん。
――
なるほど。すばらしいアイディアですね。
内田
いえいえ。
古い家具って、気に入るのが見つかるまでの時間が
かかりますよね。
これもだいぶ、探しました。
――
こっち側の古い家具は、セットなんですか。
内田
これは、ほんとはふたつを縦に重ねるものなんですが、
それを横に並べているだけです。
――
へぇぇ。そういうことですか。それも、アイディアだなぁ。
どこのものなんだろう。
日本ですか? 中国とか?
内田
ここにあるのは全部、日本のものです。
なんかね、ヨーロッパ系って、もうちょっと、
デザインがこってりした感じ、っていうのかな、
強いんですよね。
長野
ああ。そうですよね。
いいですね、これ。
――
日本にもこういうのがあるんですね。
いいなぁ。

調和するものを、ゆっくり探す

長野
ここに、ガラスのポットとかが集まってますけど、
このコーナーは?
お茶のものが多いですね。さすが、お茶好き。
内田
いや、単純に入りきらなくて、ここに。
――
あ、もうひとつの棚にも。
内田
そうなんです。
お茶用の道具だけを入れる茶棚を、
ずーっと探してたんです。
急いではいなかったので、じっくり探しました。
置く場所はもうここしかなかったんですけれど、
ほんとは明かり取りにしたい場所を
ふさぐことになってしまうので、
なるべくガラスが多く使われていて、
高さもあまり高すぎないものを、って。
で、こってりしていないもの。
――
こってりしていない。
そこ、けっこう重要なわけですよね。
内田
そうですね。
サラッと、他の家具と調和するようなものがいい。
――
これ、側面もガラスで、光が入るんですね。
抜け感があって、いいですよね。
めずらしいなぁ。見たことないです。
長野
そういえば前にお邪魔した時は、なかったですね。
内田
そうなんですよ。
ちょっとずつ、ちょっとずつ足していったので。
で、これがあっという間に埋まりました(笑)。
――
それでこのコーナーができちゃったんですね。
あちら側にはお皿とか、
いろいろな食器が入ってますね。
内田
これが、もともとあった古い家具です。
こっちがメインで、
最初はこれだけでやってたんですけど、
どんどん、どんどん入らなくなってしまって。
――
3人家族でこのくらいの量って‥‥?
内田
料理家、料理研究家としては‥‥。
同業の友達はたくさん持ってる方たちなので、
それを考えると私はあんまり多くないと思います。
3人家族なら、十分すぎる感じです。
――
お仕事柄、たくさんあって当然ですね。
シンプルなものが多いのかな。
内田
そうですね。
――
この箪笥みたいなものには何が入っているんですか?
内田
これは食庫なんです。
――
食庫。パントリーというようなことですね。
内田
お茶とか調味料とか、乾物だとか、
そんなものがえんえんと入っています(笑)。
――
これはもともとそういう用の家具ですか?
内田
製図用の棚だったみたいです。
大きな紙がピタっと入るような。
だからメチャクチャ奥まで広いんですよ。
――
製図用。おっきい図面とかを入れるものだ。
内田
そうですね。これもアンティークです。
ここは、お茶だけが入っている引き出しです。
ここは見ていただいて大丈夫。
他はちょっと、すごいことになってるんで(笑)。
――
じゃあ、ちょっと拝見していいでしょうか?
あ、やっぱり奥行きがあります。
収納力は、相当ありそうですね。
内田
ただ、奥までギッシリ入っているので、
たまに点検しないと。
このへんは全部、お茶ですね。
あとはもう外国で買ってきたものが多いので。
――
この製図用の棚は、いろいろ見てて、
これが良さそう、って見つけたんですか。
内田
そうですね。
古い家具を見るのが好きです。
――
いろんなところに見に行くんですか?
内田
私はほぼネットで買い物します。
――
え、ネットで?
内田
はい。
――
ほぉ~。
内田
家具も、ネットで買いました(笑)。
これも、これも、これも、
ほぼ全部ネットで買いました(笑)。
――
現物は見に行かない?
内田
行かないです。
長野
あ、そうなんだ。それはないな。僕は。
――
ネットで買って、着いてみたら入らないとか、
そういうことはないですか?
内田
大きさだけは、事前にすごくチェックします。
――
入らなかったら大変ですもんね。
そこはやっぱりシビアに。
内田
最近は、ネットの家具屋さんも多くて、
問い合わせると、丁寧に教えてくださるんですよ。
サイズのこととか、搬入できるかどうかとか。
あと、配送の方法とか。
私、買い物がすっごい苦手で。
――
意外です。実際に行って買うのが苦手なんですか?
内田
そうなんですよ。
買い物をするのって、旅に出た時ですね。
これは、三重のお友達のお店に行った時に、
実際に使ってらっしゃったものなんです。
古いものを扱ってる家具屋さんなので、
「これに似たようなのが出たら教えてください」
って言ったら、
「これ、持っていっていいよ」って。
――
そんなこともあるんですね。

風通しのいい家には、光もたっぷり

――
キッチンは、すごくシンプルで。
内田
そうですね。
システムキッチンにすると、なんか豪奢というか、
そういう感じになってしまうのが嫌だったんです。
――
カタログ写真みたいなシステムキッチンになると。
内田
そうなんですよ。
だから、「なるべく雑然とした感じに」って
設計してもらいました。
――
それも長野さんと通ずるなにかがありますね。
長野
うちはIKEAです。だからずいぶん安かった。
IKEAのシステムキッチン。
内田
いいな~。
IKEAのシステムキッチンは、
うちが建てるときはなかった(笑)。
ガス台だけは、
どうしてもこの大きいのが良かったんです。
――
ガス台が大きい。
たしかに、すごい迫力です。
ここの鉄の感じがすごいですね。
長野
これはすごいな。これは家庭用じゃないですよね。
内田
そうです、業務用なんですよ。
グランドピアノぐらい重さがあるって言われて。
200㎏ぐらいあるらしいです。
長野
えー! それはすごい。
内田
ふつうの家だと
補強しなくては無理な重さなんですけれど、
たまたまうち、家がツーバイフォー工法という作り方だったから、
グランドピアノを置いても大丈夫な強度があって。
長野
ツーバイフォーなんですね。
内田
そうなんですよ。
だから窓が多くて、柱がないんです。
――
でもとにかく明るいからいいですよね。
柱がないもの、スッキリ見えていいです。
内田
じつはメインに考えたのは、
光より、風通しなんです。
――
陽当たりを気にするのはふつうですけど、
風通しですか。
内田
日本って、夏の湿気が強いですよね。
でも風を通すことで、
家を長持ちさせられるんだそうです。
だから風通しのために、窓がいっぱいある。
――
四方に窓がありますもんね。
内田
そうなんですよ。
なので、上も下も窓を開けると、
すごく風が通るので、涼しくなります。
結果、明るい家にもなったんですけどね。
長野
いいですよ。
偶然とはいえ、この明るさはすばらしい。
――
撮影向きですね(笑)。
長野
そう。撮影向きですよ。
ほんとにすばらしい。いい光が入ります。
内田
光がよく入る家になりました。
――
「風通し」は新鮮なキーワードでしたね。
ありがとうございました。
では、内田さんの「いいもの」を
ご紹介いただこうと思います。

(次回、内田さんの「いいものリレー」がはじまります)