たまねぎアメと 森繁パンダ。 〜黒柳徹子さんのお話〜

第7回 しっぱいー。
黒柳 シンシンは引っ込み思案でしたが
リンリンのほうはすごかった。
パンダの部屋では、植木鉢に竹を植えて
インテリアにしてたみたいなんだけど、
全部抜いちゃって、
床なんかドロンドロンになってる。
で、リンリンは、空いた植木鉢に、なんと
自分が入ろうとしていました。
そのとき、わたしはカメラを持ってたんですけど、
帰ってきて現像したら、
植木鉢ばっかり写ってたのよ。
なんでだろう? と思ったら、
リンリンが植木鉢の中に入って、
カップケーキのようになろうとしてたわけです。
糸井 リンリンが(笑)。
黒柳 なかなか入れなかったんだけど、
「とうとう入った!」という瞬間があって、
それをわたしがカメラで何枚も
撮っていたというわけです。
よーく見ると、中にリンリンがいました。
糸井 はぁああ。
黒柳 泥んこになりながら、
ついにカップケーキになった。
そうとう苦しい状態だと思うんだけど
ずーっとそのままになってました。
それが「成功!」って、
自分で思うのね。
そこがほかの動物とはちがう、
すごく変わったところだと思います。
糸井 いやぁ、それはそうですねぇ。
黒柳 でんぐり返ししても、
まっすぐくるんといかないと、
「しっぱいー」って頭かいて、笹食べて、
また行って、でんぐり返しして、
失敗して、笹食べて、
「しっぱいー」って頭かいて戻ってくるの。
だけど、くるんと回れたら、
「できました」と自分で満足して、
そこででんぐり返しを終えます。
なぜ「これがいい」と
自分で思うのか、そこがわからない。
糸井 野生のパンダも、きっと
そういうことをしてるんでしょうね。
黒柳 パンダは、1年ぐらいで
親と離れるらしいんです。
山の中で、ひとりで遊びを考えて
自分で遊んでるんでしょうね。
糸井 遊びばっかりしてると
普通は滅びちゃったりしちゃいますよねぇ。
黒柳 ええ。
糸井 でも、パンダたちは、
遊んでばかりでも、滅びなかったんですね。
黒柳 上野動物園にいたカンカン、ランランも
遊びがすごく上手だったんですよ。
あそこの檻の中に
大きなタイヤが鎖でつながってたのを
写真か何かでごらんになった方も
いらっしゃると思います。
そのタイヤを、あの子たちは
ブンと向こうに放って、
そのあいだに自分がでんぐり返しするんです。
糸井 はい。
黒柳 おしりが向こうに向いてるとき、
タイヤが戻ってきて、ボンってぶつかると
自分が逆にでんぐり返しして、
「はぁー、できた」
とか思うわけです。
糸井 ほう。
黒柳 だけど、たいていは、
でんぐり返ししてるあいだに
タイヤがスーッと通り過ぎちゃったりするんです。
そうすると「しっぱいー」となっちゃうわけ。
そのたびに頭をかいたりして。
糸井 頭をかくのは、その都度やるんですか。
黒柳 うん、だいたいね。
上海雑技団にウェイウェイという名前のパンダが
いたんですけど、
あの子なんてもっとすごいんです。
まずはサーカスで芸事を「やらされてる」という
感じじゃないの。
糸井 うん、うん。
黒柳 ウェイウェイは、ひとりでおすべりを上がって、
すべってくるんです。
「ウェイウェイ、やんなさい」と言われると、
まず、すべり台の下のほうに歩いていって、
上をキョロキョロ見るんです。
それで、しばらく「ウーン」と考えるの。
糸井 ははははは。
黒柳 「この階段をのぼっていくの、どうしようかなぁ」
なんて思ってるのかしらね、
頭をかいたりしてるんですけど、
そのうち、のぼるんですよ。
「やらされてる」というんじゃないの、
自分で「のぼろう」と思ったときに、
のぼるわけです。
しかも、「ちゃんとすべろう」という
気があるから、いい加減には座んないわけ。
お尻をぐいぐいぐいぐいやって、
ぐいぐいやってるうちに
スーッてすべちゃって‥‥‥
糸井 「しっぱいー」(笑)
黒柳 そう。すごい憤慨してねぇ。
観客 (笑)
黒柳 身軽なもんだから、
おすべりの坂の途中で立ちあがっちゃって、
タッタッタッて、走って降りるんですよ。
観客 (爆笑)
黒柳 下に降りたら、またぐるっと回って
上見て頭かいて、階段をのぼるんだけど、
体重の関係でしょうね、
まだ自分が用意してないうちに、
すべっちゃって。
「ワー」と、なっちゃうじゃない?
観客 (笑)
黒柳 見ているわたしたちはそれがかわいいんだけど、
本人はすごくイヤなのね。
すべり台の途中で立ち上がって降りるというのは
そうとうなことだと思います。
糸井 うん、うん(笑)。
黒柳 最終的には、おしりをちゃんと入れて、
スーーーーッと滑る。
そうしたら、「成功」で、
それ以上はやりません。
糸井 ほう。
黒柳 すごいでしょ?
それを見たときにね、
ああ、このウェイウェイは、
やらされてるんじゃない、
好きでやってるんだ、って思いました。
糸井 うーん、すごいなぁ。
黒柳 最後には、ラッパみたいなものを持って、
「プーッ」とかいいながら、
犬が引っ張った車に乗って出てきます。
まぁ、ラッパの音は、偽物なんですけどね。
糸井 うん(笑)。
黒柳 そのときは、べつにぜんぜん愛想もなく
スッと引っ込んで行きます。
糸井 それはもう、
「オレはオレでやってるから」
ってことですね。
黒柳 そう。
あのパンダの引っ込みを見たときにね、
わたしも、舞台だか番組だかに出て
最後にずるずるするの、
やめようと思いました。
糸井 はははは。
黒柳 「パンダを見よ」と。
糸井 サッとね。
黒柳 そう、サッと。
なんの未練もなく。
観客 (笑)
黒柳 どんなに拍手があっても
手を上げたりいろんなことしたりしないで、
プーッとやりながら、
去っていくことにしました。
糸井 ははははは。
だけど、その上海雑技団で 黒柳さんが気になったのは、実は また別の動物だったんだ。つづく!
2010-03-31-WED
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