クマちゃんからの便り

ゾマホン、ありがとう

朝、9時出発。
10時前にはボチボチ作業始める。
校庭にはときどき土を巻きげる旋風。
SABIがいた。
初めて笑った顔でオレを待っていた。
「そうだ、笑うんだ」
前歯が二本取れていた。
「お前、歯が抜けていたのか」
頭をグリグリ。
彼の母さんは妹を連れて出て行き、
彼の面倒はひい爺さん夫婦がみているのだ。
そんなことはよくあることだ。
でも昨日からSABIの動きが見違える。
煉瓦を運んだり、赤土を運ぶ一輪車を押す手伝いをしたり。
前歯のない笑顔が出る。

大きなラセンに伸びたドラゴンの背びれが
ズンズン高くなってきた。
午前中の三時間でほとんど出来上がっていた。
午後三時から再開。肉付けしたら仕上がりだ。
「ゾマホン、彼等一人残らずにメシを喰わせてくれよ」
「うん、ワタシもそう思って
 給食のおばさんに来て貰ってるよ」
オレ等は町の食堂に食いに行く。
すっかり気に入りになった<山の羊>。
オレは一日一食はこれだ。
去年「これはネズミだ」と言ったのは
プロデューサーのナカガワらしい。
ゾマホンは
「ふざけるんじゃない、ネズミは家に棲むヤツやつだよ」
「町で売り歩いているのを見たら顔がネズミだった」
「これは大統領だって招待にだす高級料理だ」
コバヤシ・カメラも
「俺も大きなネズミだと思う」
と言って喰わない。
どっちだってイイがオレには美味いのでる。
普段、焼き肉すら口にしないオレは、
食い物をうまく説明出来ないけど堪らなく美味い。
ゾマホンに食堂の厨房に案内されて見た。
首は落とされていたけどネズミではなかった。

昼メシから戻ると、
ドラゴンのマンゴーに変身する辺りの
一メートルほどが崩れ墜ちているではないか。
「うーん」ちょっと考えていると校長も飛んできて
「給食の間に、旋風で倒れたんだろう」と言う。
「なに、煉瓦の積み方が悪くて、
 乾かないうちにずれただけさ」
「クマチャン、直シテクダサイ」
子ども等が声を揃える。
一人の少年が「クマサン」と言えずに
「クマチャン」と言って以来
「クマチャン」になった。オレも気に入ってた。
「大丈夫、任せとけ」。
職人<トーリョー>は
上着も脱いでオレのいい手元になっている。
たちまち崩壊修理は終わった。
ラセンの大元をマンゴーの樹に繋げる。
これが見せ場だ。
石を抱えたSUMAが木に登ってオレの指示通りに
ドラゴンの背中にした。
「ウーーン、完成だ。
 子ども等はみんなこのエスカルゴに入れ」
赤土にまみれた黒い子ども等が
大きなドラゴンの中に入ってくる。
大地からうねって地下の水を吸い上げ
マンゴーの樹になった水神。
おいしいマンゴーの実を生らせ天に昇った水は
雨となって大地を潤して、
またマンゴーになり、みんなの生命を這入っていくんだ。

今日、こうやってみんなで創った
ドラゴンのことをわすれんなよ。

『終わった・・・』

今回のオレはこの9時間のためがほとんどだったのだ。
「ありがとう、おめでとう」
ゾマホンが最敬礼のお辞儀をした。
「違う、みんなだ。
 この<水のドラゴン>が
 子ども等の記憶の中で大きくなるとイイな、ゾマホン」

それからは、子ども等と歌い踊りの大騒ぎ。
SABIもSUMAも歌ってる。
「オレは北半球に帰るぞ。
 いつか、何処かでナ。
 みんな達者で。サイナラ」
赤道直下の熱い二日間だった。
オレはぼんやりとドラゴンの壁に開いた
無数の孔を眺めていた。
これが関わった子ども等みんなのサインだ。
SABIがオレのズボンを引っ張った。
「さよなら」
前歯の間にきれいな赤い舌が見えた。
足らずだったけどはっきりと。
みんなに配った石鹸を小さな手で大事そうに握っている。
一回きつく抱きしめた。
「そうだ、そうやって笑うんだ。元気でな。もう帰れ」
背中をポンとたたいた。
何人かの子ども等と集落の方に走り去った後の土ぼこりに、
ちょっと切なくなった。

『サイナラ、SABI、
 ありがとうSUMAや
 名前は知らない全ての子ども達。
 オレが出来るのはここまでだよ。
 あとはお前等が
 新しいアフリカのBENIN人になるんだ』

オレは新しいエネルギーで満タンになっていた。
また山にこもって次の小説を書き始めるかい。
小学館の<カマ剣>イクゾ!

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2010-04-12-MON
KUMA
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