クマちゃんからの便り
土砂降りの亀とオレ

岩塩を買いに土砂降りの農道をボンヤリと歩いていたら、
田んぼのあぜ道を土亀がノロノロと歩いていた。
ノロノロはしているけど
拳ほどの甲羅は休まず歩いていた。
野性の亀なんて久しぶりに見た。

傘をさしたヒマなオレは、
亀の後をついていこうと思った。
しかしせっかちなオレはつい亀を追い抜いてしまう。
100メートルのハンデを持ったアキレスが、
無限に亀を追い抜けない話しを
最初に聞いたのは中学の時だ。
社会科の時間だった。
特攻隊帰りの代用教員が、
何の切っ掛けだったか黒板に引いた白墨の線上に、
アキレスと亀の位置を描いて話しが始まった。
アキレスが追い着いた時は、
亀もすでに何ミリかは進んでいる。
アキレスが次にその何ミリか先に着くと、
亀はやっぱり0.0何ミリ先かは行ってる。
こうしてどこまで行っても
アキレスは追い越せないという話しに、
ボンヤリ者だったオレでも
『そんなバカな』と思った。
下校途中、黒板の図解を思い浮かべ
不思議さに吐きそうになった。

大きくなってからあの謎が、
有名な<パラドックス>のひとつであることも知った。
でもあの代用教員が社会科の時間に突如、
喋りだした事の方が謎だった。
線は無限の点で出来ているというのが
ミソなのかなぁ‥‥。
その点は幅も無いんだったなぁ‥‥。
パラドックスを考え始めると、
やっぱり目まいがすることに変わりない。

稲妻まで走り出した。
アキレスではないオレは、
土亀を跨いで<道の駅>に急いだ。
雨の中でいっそう鮮やかな<赤>は石榴の花だ。

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2008-06-25-WED
KUMA
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