クマちゃんからの便り
新しい予感

銅板や金属板に痕跡を刻んで<版>を作る予感の二年前、
大枚をはたいてのプレス機だった。
その予感が熟した正月早々、
一九〇センチ立方の巨大な
<カメラオブスキュラ>を作って、
二トントラックの荷台の上に設置した。
闇のキューブ中に這入ったオレは<暗箱男>になった。
なんとも激しい年明けである。

トラックを村のスダさんが運転すると、
箱の前面に開けた五ミリのピンホールから、
外界のヒカリが飛び込んでくる。
遠ざかっていく逆さまになった巨大な風景が、
一メートル×七十五センチの銅板に結ばれた。
生暖かい春の温度を体感しながら、
倒立したヒカリの乱舞に眼を漂わせて、
懐かしい目眩を感じていたのだ。

ガキの頃、オレはヒト目を盗んで
社宅前に設えてあったゴミ箱に這入って、
オフクロに貰った屑毛糸で
メリヤス編みをやっていた時期があった。
クルクルパーになったオレは、
ヒカリの中で遠いジカンを旅していた。

穀倉地帯の米を貯蔵している
ライスタワーの前でとまったようだ。
暗箱のなかの銅板上で踊るヒカリの群れを素早く捉えて、
刻み込むのである。

冷え込むFACTORYの版画部屋に戻り、
硝酸の中で刻々と変化する<版>に、
なおもドライポイントで記憶のヒカリを描き込んでいく。
手作業が想像力を奮い立たせ、
オレを睡ることを忘れさせる。
駆け付けてくれたエッチング作家の永澤が、
泊まりがけで刷りを担当してくれた。

しかし、オレのプレス機は、
強力な圧力を必要とするエッチング専用に
作られてはないらしい。
1メートル×75センチの大きな銅版を試刷してみると、
画面の中央に圧力の斑がでるようだった。
機械のその癖をも味方にして、
一枚だけのエッチングを刷り上げた。
大満足の刷り上がりである。
オレの無意識を撹拌する手仕事が、
激しくも新たな予感の四日間だった。



 

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2008-01-20-SUN
KUMA
戻る