クマちゃんからの便り
熱い蟄居

遅ればせながら、
山岳の景色も少し色づいてきたが
すでに11月も半ばだ。
この数日山頂を雲が覆っていたが、
今朝は晴れて冷たい風が吹きつけ
甲斐嶽の白い頂が久しぶりに姿を現す。
日がなアカマツの枯れた針葉が
ビシビシ刺さるように工場のトタン壁を打ち続けていた。
いっそう寒い。
つい最近まで外でウロウロしていたカエルや蛇は
もう冬眠の穴に睡りについただろう。
オレも高知から戻ってから
この山岳にヒッソリと籠もっている。

オレが彼等と違うのは地味ながら鉄との覚醒だ。
朝から工場に降りてひたすら、
かつては嗜好の商品だった
ブリキの小箱に紙ヤスリをかける。
針葉襲来の音にシンクロした小刻みな掌の動きに、
チョコレート、葉巻、飴など、
意匠のメモリーを脱がされていく黒がねの素肌。
バーナー火炎のドローイングが鉄板を穿つ。
夜になってケガキ針の先で細密な線を重ねていると、
これはアングラの熱いジダイに、
研いだ鉛筆の先で描き重ねていった
鉛のポスター画の所作である。
二次元の紙に鉛筆の線とは違い、
鉄の平面を削り続けるケガキ針やバーナーは、
三次元のドローイングになっていくのである。
この薄い彫刻はオレの新しいエッチングだ。
目と心の指先の触感の快楽。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2007-11-18-SUN
KUMA
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