クマちゃんからの便り

田の水

ゆっくり歩く。
風は温度の流れだ。
塩辛トンボがそちこちに流れている。

溶岩粒と硝子柱でオブジェのミニチュアを作ったり、
ハサミで切り刻んだステンレス板やシンチュー板の
不動明王を作ったりの毎日。
気分が向いた時間に、
豊かな水嵩が飛沫をあげる
農業用水路に沿った畦道を歩くようになった。

畦道と言っても、アスファルト舗装された
「耕耘機最優先」の農道である。

濃くなった稲穂を眺めながらブラブラ歩行するには
ピッタシの道である。
ときどき爺婆のノロノロトラクターや、
軽トラとすれ違い会釈を交わす。

稲の成育にばらつきがあるのは田植え日の違いで、
刈り入れの秋にはどの田も同じになる。

前の方の稲は正常だが、
大きな直角三角形に干涸らびた奥の稲に
覇気がないのが気になっていた。

田が傾いているから、水が全体に回ってないのだ。
田植え前の代掻きがいい加減だったせいだろう。

伝承されない基本は、化学肥料で帳尻を合わせるのか。
水や土の管理は触覚だ、
とヒトの田に憤ったところで
今さらどうしようもないのだが‥‥。

ひとときも止まることのない田の水は、
強い陽射しに激しく蒸発する。
快晴の日の夕方になると百姓たちは、
自分の田を見詰めにやってくる。
大量に昇天した水量を眼で計り、
やがて慎重に取り入れ口の戸板を引き上げ、
田に水を招き入れる。

棒っ杭のようなシルエットになった彼は、
水になる大切なジカンなのだ。
これを怠けて、朝、慌てて取り込んだ冷たい水は、
稲を弱らせてしまうだけである。
まさに<水の田>だ。

 

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2007-07-12-THU
KUMA
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