クマちゃんからの便り

赤富士



朝から晴れ渡っていたが、
昼過ぎから山にうっすらと
モヤがかかりだしたのが気になって、
見上げていた空に黒い点を見つけた。

音はまだ聞こえなかったが
見る見る大きくなってくる点は、
東京方面から飛んでくるはずのヘリコプターだった。

航空学園のヘリポートの草が四方八方に騒ぎだし、
無事○にHに着陸した。

今年は三宅島で開かれる
<火山フォーラム>に参加するために、
砂防の堀内所長が大沢崩れなど
地表のジカンの視察に同行しないかということになった。

釜無川の二〇〇〇メートル上空を
時速二〇〇km以上で駿河湾に向かう。
富士川河口に出て沼津海岸に沿い富士山に向かうのだが、
二〇〇〇メートルを越えると雲が厚くなってきて、
隙間を縫いながら上昇していく。

右側シートのオレに気を遣ってくれたのか、
視察現場は右旋回をしてくれた。
山奥の部屋で中学数学を復習したり、
刺繍や読書なぞ虫瞰的な日々をすごしていたから、
眼下に拓けて過ぎてくGPSのような視界が、
新鮮で眩しい。

絶望だった目の前の雲が割れた。
オレの右側に突然、
八合目から火口にかけて焼けただれたような
鉄錆色のドアップの富士がオレのために現れた。
鼻腔の奥が熱く
うっかりすると目頭さえ熱くなりそうだった。

こんな動揺は初めての経験だったかもしれない。
活き活きとしたザックリと大きな裂け目は大沢崩れだ。
この崩れから発見された樹木から、
すでに一〇〇〇年前から崩れは始まっているという。
凍結、氷解を繰り返すたい積した火山岩に
降雨や地震たびに崩れが続いき、
二つに割れるか噴火が早いのか。

火口付近を三回目の旋回してもらった。
それにしても何度見ても
始原のエロティックに心を奪われた。
やっぱりこの山には何かが宿っているのだ。
オレの頭蓋内が
なにか分からないモノにインスパイアされた。

今月末は、
「富士の方に手を合わせれば墓参りしたことにしてやる」
と、富士の裾野に買った墓に収まった親父の十三回忌だ。
オレはそおっと手を合わせた。
すると雲が湧いてきて、赤富士はたちまち姿を消した。

晴れ渡って何処までも見え過ぎる景色は卑しい。
オレはホッとした。

安倍川上流の大谷崩れ、七面山崩壊地、
早川沿いに北上し荒川岳崩壊地と回った。
鮮やかな紅葉と崩れの激しさの対比が美しかった。

帰路に甲斐嶽上空を飛び、
オレのFACTORYも初めて神の目線で見た。
刺繍や読書の書斎がチッポケな<点>だった。

<点>だった部屋に戻ったオレのなかに、
<赤い富士の荘厳>が充たしていた。





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2006-10-22-SUN
KUMA
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