クマちゃんからの便り

ソゾロカゼ

コリャ君の四輪駆動車で<万葉の杜>に向かい、
香具山の森のヒト等と切り出した八〇〇本の竹を
平城旧跡に運び込んだ。

極寒の<TOMAMU水のオブジェ>に続き
二〇〇六の第二弾は、
広大な空き地である平城旧跡を
二〇〇個のヒカリを透かしたキューブが、
風のカタチをなぞる<風のインスタレーション>である。

一辺二メートルのキューブは、
四本の竹を中心で束めた対角線。
寸法に縫いあわせて作った
淡いモモイロの蚊帳生地をかぶせるのである。
朱雀門と復元中の大極殿にはさまれた広大な遺構には、
柔らかい風に無数の雲雀が飛び回り
目眩をおこすような空き地だ。

ピッカリ君をリーダーとする森のヒト等、
KORYAとお馴染み村のスダさん、
航空自衛隊の若い隊員、県庁の末端役人たちを
チームにして作業が始まった。

吹いたばかりの新芽の真新しいミドリの空き地に、
晴天のヒカリのなか快調な速度で
モモイロの淡いキューブが立ち上がっていく。

古代と変わらぬ今日の風をなぞって、
キューブの面が自在に風のカタチに変形している。
この全景はカメラには収めきれない広大な風の回廊だ。
天女の行列にも見えた。

食欲をそそる色合いの景色に、
差し入れのコンビニ弁当さえが料亭の味になった。
満足気に打ち上げエン会が話題になり、
KORYAが呑み屋に予約電話を入れていた時、
「アーッ」誰かが対岸を指さして叫んだ。

風を孕んで大きく変形した対岸の一個のキューブを
<美しい>と思っていると、
ゆっくり向こう側に倒れていった。
隣のキューブが痙攣すると崩れ、
その動きは音もなく次々に連鎖していくのである。
『もっとこの風が続け!』
夢の中の景色を見ていたかったオレは
秘かに思ったものだ。

不測の事態に走り出すメンバーに、
「直すジカンはたっぷりある。
 この美しい不測の景色に立ち会えるのは
 オレ達の特権なんだ」と指令した。

夢のようなカタストロフィーを眺めていると
一〇〇個ちかくが倒れていった。
絶望感と美しい景色を創った満足感が
まぜこぜになった不思議な気分だった。

脊椎にザワザワが往き来していたが
また完了したら、雲雀の目線で
<ソゾロカゼ>をなぞるように撮影したいと思った。
KORYAは、肥料を散布するラジコンの
ヘリコプターの手配をたちまち済ませた。
心強い書生である。

航空自衛隊のリーダーに土嚢作りを依頼すると、
たちまち二〇〇個が隊のトラックで届けられた。
さすがに土嚢作りだけは彼等の得意ワザだわい。

対角線の交点を地面の土嚢と繋ぐのだ。
打ち上げは中止になり、
トラックのヘッドライトをたよりに、
再構築作業が終了したのは
夜中の十一時五十九分だった。

寮の台所にあった泡盛で三時まで呑み、
六時には現場にいた。ピッカリ君、スダさん、
KORYA、カズマ。人数は一挙に減ったが、
オブジェは朝日に輝いていた。

オレのハイビジョン・カメラを搭載した
ラジコン・ヘリコプターが飛び立つのを見届けて、
スダさんは長距離バスで村に戻り、
ピッカリ君も<万葉の杜>に帰っていった。

オレは二十九日のオープニング挨拶も済ませ、
焼き鯖寿司を買い新幹線で喰う。
KUMABLUE二日間だけの夢のような
<ソゾロカゼ>の景色に大満足だった。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2006-05-09-TUE
KUMA
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