こういうやつが、いたんだよ。  赤坂英一さんとプロ野球の話を
 
第3回 抜き書きの人たち。
糸井 野球と「ことば」の話に戻りますけど、
ちょっと前の時代の野球選手と、
いまの野球選手って、
もう見ている目が違うんじゃないかなぁ
って思うことがあるんです。
赤坂 「目」。
糸井 目というか、見方というか。
たとえば、なんだろう、
今度広島の監督になる
野村謙二郎さんがテレビで
野球の解説をしているのを聞くと、
すごく説得力を感じる一方で、
「これ、いま現役の若い選手には
 通じてるのかな?」と思うんです。



たとえば、そうですね、
同じショートでいうと、
川崎ムネリン(宗則)が、
野村謙二郎と同じ見方をしてるとは
どうも思えないんですよね。
なんていうか、野村謙二郎は
言語で野球をとらえている気がするんです。
でも、坂本(勇人)とか、ムネリンとか、
いまの若い選手は写真として
プレーをとらえているような気がする。
赤坂 ああ、なるほど。
糸井 プレーひとつとっても、言語じゃなくて、
写真とか動画みたいな感じで‥‥。
赤坂 理解していると。なるほど。
糸井 たとえば坂本がむずかしい位置の
ショートゴロをさばいてね、
クルッと回って遠投してアウトにする、
なんていうときも、
丸ごと動画でとらえている感じがする。
こう、多少、無理があるんだけど、
見事にアウトにしちゃう、みたいな。
本人も、アウトにできて、
ちょっと驚いてたりね。
それって、言語でとらえてる感じが
どうも、しないんですよね。
‥‥すいませんね、抽象的な話で。
赤坂 いえいえ(笑)、わかりますよ。
人が変わったのか、時代の流れなのか‥‥。
糸井 ある時代までは野球って
当たり前に言語のものだった
っていう感じがするんです。
それこそ、赤坂さんの本に出てくるのは
みんな、言語の人たち。
赤坂 そうですね。アナログな人たち。
糸井 うん(笑)。
赤坂 1990年の日本シリーズで、
巨人が西武に4連敗したことがあったでしょう。
巨人の四番打者、原辰徳、
西武のエース、渡辺久信が、
いまでは両方のチームの監督になっていて、
彼らに当時のことを
訊く機会があったんですけどね。
巨人では、西武の情報を
いっぱい与えられたんですって。
詰め込まれすぎた結果、
かえって萎縮しちゃった。
でも、西武ではそうじゃなくて、
いろんなデータがそろっているなかで
首脳陣が取捨選択して、
「これだけを覚えればいい」という
情報だけを伝えたそうなんです。
糸井 なるほど。
短期決戦だから、混乱しないように。
赤坂 ええ。
でも、いまはまったく逆で、
全部詰め込めばいいんですって。
なぜかというと、いまの選手は
小さいころから携帯電話があったり
パソコンがあったりと、
情報の洪水の中で育ってる。
要するに、昔の選手たちとは
情報処理能力がぜんぜん違うわけです。
だから、思ったこととか感じたこととか
全部、言ってやりゃいいんだと。
糸井 へぇーー。
赤坂 西武の打撃コーチをやってるデーブいわく、
「俺たちだったら、
 一度にあんなにいろんなこと言われたら
 大混乱すると思うんだけど、
 片岡(易之)とか栗山(巧)なんかは
 平気で全部吸収しちゃう」と。
ただし、その半面、
最初から受けつけないこともある。
デーブが片岡に説教していたら、
何を言っても生返事でこたえた様子がない。
ぶち切れたのかと思っていると、
夜中の1時半ごろになって電話がかかってきて、
「あのときはすみませんでした。
 なんか、どうでも
 よくなっちゃったもんですから」って。
いまの子はそんな感じだそうですよ。
糸井 なるほどねー。
あの、昔は、3行ずつの
文章のフレーズがあったとすると、
ぼくらのころはその3行を全部足して、
240行の本になったものを
一所懸命読んでたような気がするんです。
でも、いまのひとたちって、
「抜き書き」みたいなものを選びますよね。
赤坂 あー、コピペですね。
糸井 つぎはぎでも気にしない、
というか、気にならない。
最初の3行とそのつぎにある3行が
矛盾した内容でも、別々のものとして
デジタルに処理する、みたいな。
それは、ぼく自身も、
最近はそういう傾向がありますね。
赤坂 ああ、そうですか。
糸井 完全に脱線しますけど、
太宰治の作品の中のことばを
いくつも抜き出して、
けっこうばらばらにぺたぺた貼りつけてある、
どちらかといえば安いつくりの本があるんです。
それがねぇ、ばらばらなんだけど、
やっぱりおもしろいんですよ。
抜き書きとはいえ、圧倒される。
もともとの絞り出す力がすごいから。
赤坂 ほほう。
糸井 で、それを喜んでる自分を
ちょっとおもしろく思うんです。
昔だったら「これはないよな」と
渋い顔して言ったと思うんです(笑)。
赤坂 ああ、ああ、なるほどね。
糸井 で、そういうのがたくさん出てる中で、
赤坂さんのこういう、
流れと、ことばのある本に出会うと、
やっぱり、うれしくて、
読んじゃうんですよね。
赤坂 (笑)
糸井 どっちがいいとか
悪いとかじゃないんですけど。



(つづきます)
2009-12-10-THU
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