小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の六拾・・・・忍者


「人間離れした動きですね。まるで忍者のようです」

「そうやろ。何せ彼らは、忍者やからな」

小林先生と弟子の北小岩くんは、今、滋賀の山奥にいる。


北小岩 「現代にまだ忍者が生存しているとは、
 思ってもみませんでした。
 地理から推測するに、
 あの方々は甲賀流ですね」
小林 「いや、違う。彼らは甲賀流ではなく、
 『こうがん流』や。
 もともとは甲賀の流れやったんやが、
 そこでヘマをしでかし破門されて
 仕方なく立ち上げたんやな。
 あそこにいる威風堂々とした男が、
 筆頭格の睾丸流政宗や」


睾丸流政宗は小林先生に気づき、こちらに近づいてきた。
政宗 「やあ、先生ではありませんか。
 お久しぶりです。
 雄琴でお会いして以来ですね。
 あの節はどうもお世話になりました。
 ところでそちらのお方は?」
北小岩 「私、弟子の北小岩と申します。
 睾丸流とお伺いしましたが、
 もしかすると独眼竜の間違いではありませんか?
 でもお見かけしたところ、独眼ではありませんね」
政宗は静かに微笑み、
装束をといて下半身をむき出しにした。
北小岩くんは思わず息を飲んだ。
右の睾丸に、黒い眼帯が装着されていたのである。
小林 「政宗はんは修行中にあやまって
 自分の手裏剣を金玉に刺してしまい、
 玉をひとつつぶしてしまったんや。
 それ以来、睾丸流政宗を名のっていらっしゃる」
誰も知らない秘境で、
こうがん流忍者たちは日夜厳しい修行に明け暮れている。
政宗は雄琴で小林先生にお世話になったこともあり、
忍者屋敷をくまなく案内してくれた。
長い廊下を歩いていると、
北小岩くんが急に便意を催しトイレに駆け込んだ。
北小岩 「ふう、もう少しでもらすところでした」
北小岩くんがしゃがみこみ、ホッとしたその時だった。
金隠しが物凄い勢いで飛んできて、
おちんちんを直撃した。
激痛のあまり、ふんばった体勢のまま
後ろに倒れてしまった。
ドアの向こうで、先生と政宗が笑っている。
政宗 「いやあ、しっけいしっけい。
 実はこの廊下には
 便意を誘発する香がたかれているのです。
 敵が奇襲をかけてきても
 必ずここで便意を催します。
 トイレでふんばったが最後、
 金隠しが攻撃を仕掛けます。
 このからくりは、金の弓と呼ばれています」
その他にも屋敷にはどんでん返しを応用した
まんぐり返しや、エロ本落とし穴など、
奇妙な仕掛けがあまた施されていた。
政宗 「それでは北小岩さんにも、
 一番簡単な忍術をさずけましょう」
いうが早いか、
政宗は黄土色の粉を北小岩くんに投げつけた。
北小岩くんは、どこかで嗅いだことのある匂いを
胸の奥まで吸い込んでしまった。
政宗 「それは俺の糞だ!」
北小岩 「エッ!!!」
必死に吐き出そうとするが、後の祭りだった。
政宗 「人間の鼻は、
 臭い匂いを思わず嗅いでしまう
 悲しい習性をもっています。
 糞の匂いならなおさらです。
 そこで私はこの煙幕を開発しました。
 これを嗅がされた後で実は
 糞の粉だったことを知った時、
 敵は戦意を喪失します。
 そこを一気に攻めるのです」
この煙幕にはもうひとつの利点がある。
撒かれた粉はその後肥料となって作物を育てるのだ。
こうがん流忍者は、
攻撃後のエコロジーまで考えている
真のナチュラリストなのだ。
政宗 「私たちはこれから、江戸に参ります。
 そこで修行の成果をお見せしたいと思います」
政宗を筆頭にこうがん流忍者が
総勢10名ほど東京駅に到着した。
どこを目指すのかと思ったら、吉原だった。
一人の忍者が迷わず、
時間内無制限と書かれたソープに入っていく。
忍者だけに、事前の情報収集はおこたりない。
政宗 「それでは小林先生たちは、
 ここで成果をとくとご覧ください」
みんなから「前戯」と呼ばれている忍者が、
フロントで5万円払い上玉を指名した。
個室に入ってしばらくして果てると、
次の忍者が水ぐもを使って
お湯の上を歩きソープ嬢に近づいていった。
音も立てずに前戯と入れ代わる。
前戯は窓を乗り越え、すぐに部屋から脱出してきた。
二番目の忍者は「先っぽ」と呼ばれていた。
先っぽがコトを終えると、
天井にぶら下がっていた
「ピストン」と呼ばれる忍者と入れ代わった。
それからこうがん流忍者たちは様々な忍術を駆使し、
90分の間に10人が入れ代わった。
ソープ嬢はやけに精力絶倫な男だなとは思ったものの、
忍者がたくみに顔を似せているので、
入れ代わられていることにまったく気づかなかった。
ここは総額5万円の店なので、
一人あたま5千円で済んだ計算になる。

小林 「見事や!」
北小岩 「でっ、でも、
 あの方たちはソープを安くすませるためだけに、
 あのように命がけの
 修行をしているのですか・・・・」
小林 「うむ、あのレベルで
 一人5千円は悪くないわな・・・」

弟子の真っ当な意見にも上の空で、
今日からこうがん流に弟子入りしようかと思い
目を輝かせている小林先生であった。

2001-10-25-THU

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