小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の四拾壱・・・・決まり手

日本相撲協会(時津風理事長・元大関豊山)は、
2001年初場所より新しい決まり手
十二手を採用することを決定。
国技館内で新しい技の実演会が行なわれた。

北小岩 「決まり手が現在の七十手になったのは
 1960年だそうです。つまり40年
 ぶりに増えることになるのですね」
小林 「そうやな。見直しの大きな理由は、
 モンゴル出身力士の増加にあるそうや。
 相手を倒して勝負をつけるモンゴル相撲では、
 相手の背中をとることが絶対有利なんや。
 近年、素早い動きで背後から攻めるモンゴル勢が
 数多く入門し、従来の決まり手だけでは
 定義しきれんようになったらしい」
北小岩 「ところで実演会はいかがでしたか?
 相撲ファンの私としましては、
 どんな技が加わったのか一刻も早く知りたいです」
小林 「今回の改革を担当した決まり手係は
 『蟻のト渡り親方』と『鶯の谷渡り親方』や。
 この希代の名力士が、
 体を張って数々の技を実演しておられた」
北小岩 「面白そうな技はございましたか?」
小林 「相手を肩にかつぎ上げてから反る『しゅもく反り』、
 まわしの結び目あたりをつかみ上げて落とす
 『つかみ投げ』など奥深い技が多かった。
 だが、特に印象に残ったのは『ウタマロ自慢』やな。
 外人女性はその昔、
 歌麿の絵を見て日本男児の持ちモノに
 畏怖と憧憬を抱いたそうやないか。
 そこがポイントや。
 まわしでちんちんをつぶすようし、
 通常よりかなり大きめに見せる。
 その痛々しいほどもっこりした部分を
 スケルトンにしておくんや。
 相手に
 『今俺がこの力士に勝ってもそれはひと時のこと。
 これからの人生でこいつはその持ちモノを豪快に使い、
 たくさんいい思いをするのではないか』
 という絶望感に陥らせる心理技や」
北小岩 「相撲も年々高度になってきてますね」
小林 「それとな、思わず瞠目した技が『シ〜、とっと!』や。
 よく幼児がお母さんに後ろから太ももを抱えられて、
 外でおしっこさせられるやろ。
 あの体勢をとらされ『シ〜、とっと!』といわれたまま
 土俵の外に運ばれてしまうんや」
北小岩 「それは一生の屈辱です!」
小林 「そうや。さらに驚愕したのは来場所から
 15歳未満の観戦を禁じる
  R指定の技が追加されたことや」
北小岩 「なんと!」
小林 「『一本抜き』という大技や。
 相手のまわしを片手でむんずとつかみ
 動かせないようにする。
 そしてまわしの上からあの部分を
 やさしくさすり続けるんや。
 最初は技から逃れようともがくが
 そのうち気持ちよくなり、つい身をまかせてしまう。
 フィニッシュしそうになったら行司に合図せなあかん。
 行司はその合図を受けて
 『一本抜き、待ったなし!!』と大声で宣告し
 力士はあえなく昇天。
 大黒星を喫するというわけや」
北小岩 「なるほど。
 そのような恥ずかしい技は、
 まだ人生経験の浅い人たちは
 観てはいけないというわけですね」
小林 「そうや。『一本抜き』の体勢に入ったら、
 15歳未満のものは一時会場から退出せねばならん。
 テレビ観戦の場合はスイッチを切らねばあかん」
北小岩 「それが決まるまでには3分ぐらいかかるので、
 会場から出たりテレビを消したりする時間が
 あるというわけですね」
小林 「うむ。
 それからここだけの話やが、弓取式も変わるそうや。
 名前からいってかなり豪勢やぞ。
 新弓取式は『ナン金玉簾』というんや」
北小岩 「南京玉簾の間違いではないですか?」
小林 「そんな生やさしいものではない。
 『ナン金玉簾』は荘厳な金玉の流れ星や」
北小岩 「うほっ!」
小林 「ナンというインドの食べ物があるやろ。
 3メートルある特大のナンをつくり
 土俵に横にして立てる。
 その稜線にそって力士たちが
 金玉を流れ星の如く移動させていく。
 それに参加できるのは金玉のでかい順に三人までや。
 通常の番付とは違う。
 正真正銘『金玉の三役』。
 陰毛という影に、金玉というはかない光り。
 まさに陰翳礼讃の世界や」
北小岩 「日本に脈々と受け継がれてきた古き良き味わいですね」
小林 「それだけやないで。
 金玉が流れている間に願い事をすると、
 二つまで願いがかなうという寸法や」
北小岩 「金玉は二つ。願いも二つ」
小林 「掛け声はもちろん『金、たまや〜!』や。
 これで弓取式の途中に席を立つ不埒な者が
 いなくなるやろ」

記念すべき大相撲初場所は、
来年1月7日国技館で初日を迎える。
どのような技の競演が繰り広げられるか、
今から楽しみである。
なお、国技館に足を運ばれる方は、
金玉の流れ星の際に願をかけそびれないよう、
あらかじめ願い事を二つ決めてからご観戦ください。

2000-12-26-TUE

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