小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国、日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の参拾六・・・歪曲

近頃、外国人と話をする機会が多い。
だが、少し変なのだ。
彼らはビジネスで来日しているため、日本語が堪能だ。

それなのに日本語や、日本の文化、
習慣などをねじ曲げられた形で
教えられているようなのだ。
これは私が実際に見聞したほんの一例である。

アメリカ人のジョンと話していた時のことだ。

数日前、原宿に用事があり彼の家のすぐ前を通った。

立ち寄ろうかと思ったが、
部屋の中からガールフレンドの声が聞こえたので
遠慮してそのまま帰った。
そのことを翌日彼に告げると、
怒ったような口調でこういったのだ。

「OH、ヒデオ! 俺とお前の仲じゃないか。
 そいつはイカくさいぜ!!」

イカくさい?
文脈から判断して、
「イカくさい」ではなく「水くさい」である。
日本語で「イカくさい」がどういう意味か説明すると、
ジョンはきつねにつままれたような顔でこういった。

「おかしいな。俺はイカくさいという言葉は、
 よそよそしいという意味だと習ったけどな。
 ニューヨークのアスホール・アカデミーでね」



それだけではない。
イギリス人のマーチンとも、同じようなことがあった。
日本とイギリスの政治の違いについて議論していた時だ。

小林 「だけどね、システムの違いはともかく、
 日本とイギリスの若者では
 政治に対する姿勢が違うよね。
 日本の若いヤツらは、ノンポリティカルだよ」


私がそう話した時だった。
日本の現代史に強い彼は、鋭く切り込んできた。

マーチン 「そう捨てたものでもないだろ。
 もうだいぶ前のことになるけれど、
 日本には学生たちが立ち上がって
 権力に対抗した
 60年インポと70年インポという
 ムーブメントがあったって聞いているぜ」
小林 「・・・・」


それはどう考えても、
60年アンポと70年アンポの間違いであろう。
それを告げると、彼はこういった。

マーチン 「おかしいな。
 ロンドンのアスホール・アカデミーの
 ティーチャーは確かに、
 日本には学生たちによる
 インポ闘争があったといってたぜ」



それだけではない。

オーストラリア人の
キャサリンといっしょに町を歩いていた時のことだ。
ちり紙交換の車が向こうからやってきた。
母国でリサイクルを推進している彼女は、
うれしそうにこういった。

キャサリン 「ちり紙交換、日本のグッドなリサイクルシステムね。
 スピーカーから流れるセリフも気が利いてるわね」


そういうと、大きな声でちり紙交換の真似をした。

キャサリン 「え〜、毎度おなじみのちり紙交換でございます。
 ご不能になりました夫などがございましたら、
 ちり紙と交換いたします」


キャサリンの真剣な表情から察して、
冗談でこのセリフを言っているわけではないだろう。
彼女にほんとうのセリフを伝えると、
困惑した顔でこういった。

キャサリン 「おかしいわね。
 シドニーのアスホール・アカデミーでは、
 ちり紙交換の口上は
 こうだといっていたわ」


また、アスホール・アカデミーか。

やっとわかった。アスホールといえば、
スラングで「ケツの穴」のことである。

世界の破滅を狙う悪の結社「ケツの穴」のヤツらが、
世界各地で意図的に誤った日本語を教育し、
混乱に陥れようとしているのだ。

これを見逃しておくと、
世界が大変なことになってしまう。
皆様もこのように海外のスクールで
誤った日本語を教えらた外国人を見たら、
すぐに私までご報告ください。

注・悪の結社「ケツの穴」については、
あはれといふこと其の参拾壱「穴」の章に
くわしく述べられています。

2000-05-26-FRI

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