| 北小岩 |
「随分ほこりが
溜まっておりますね」
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ぱたぱたぱた
先生の書棚にはたきをかけるのは、
弟子の数少ない仕事である。
ぱたぱたぱた どん
ざざざっ
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| 北小岩 |
「先生所蔵の名著が」
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名著と言っても。
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| 北小岩 |
「日本に数冊しか
現存しないと言われている
エロ本でございます」
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そんなことだろう。
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| 北小岩 |
「久々に
拝見させていただきます」
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パラパラッ
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| 北小岩 |
「むっぎょわ！」
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エロ本を近づけたり遠ざけたりしていた弟子が、
奇妙な声を発した。
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| 北小岩 |
「わたくしの目の前
三十センチのところにあると、
とてつもなくエゲツない
エロ本でございます」
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目ん玉をぎょろぎょろさせながら。
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| 北小岩 |
「その位置ですと、
はっきりとエロを
認識できるのですが、
近づけすぎるとぼやけてしまい、
エロではなくなってしまいます。
ということはでございます、
エロというのは
焦点が合うその一点にしか
存在しないのでは
ございませんか。
それ以外はエロであって
エロでない。
別次元の世界に
なってしまうのです」
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わかったようなわからぬような思索に耽る
弟子であった。
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| 小林 |
「朝っぱらから
エロがどうしたと、
何考えとるんや」
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| 北小岩 |
「あっ、先生」
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| 小林 |
「そんなことより、
町長から調べ事の依頼が来た」
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| 北小岩 |
「町の裏図書館に所蔵する
エロ本の吟味ですか」
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| 小林 |
「ちゃうな。
ここから三里離れた町に、
川が流れていないのに
欄干がたくさんできとるらしい。
なぜだか突き止めてくれ
という話や。
行ってみよか」
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先生と弟子は、よっちゃんイカ各自一袋で、
その大役を引き受けた。
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| 小林 |
「この町やな。
確かに欄干だらけやな」
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| 北小岩 |
「パンティが見えるほどの
ミニスカをはいている女性が、
欄干を三角木馬のように
またいでおります」
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ぎゅい〜ん ぎゅい〜ん
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| 小林 |
「動き出したで」
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パンティ
が見える
ほどの
ミニスカ
をはいて
いる女性 |
「ああ、
いいわ〜〜〜！」
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| 小林 |
「なるほど。
欄干の上に、
ゴム状の突起があるな」
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| 北小岩 |
「おや。
あそこの欄干のそばで
どこかの町から来たらしい
ナンパ師に、
しつこく付きまとわれている
女性がおります」
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ぎぎ〜
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| 小林 |
「欄干の柱の部分が
途中から折れたで」
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ぎゅ〜 ばこ〜ん
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| ナンパ師 |
「ぎょえ〜〜〜！」
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| 北小岩 |
「欄干が高速で動き、
ナンパ師の金玉を
とらえました！」
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三里離れた町にできた欄干は伊達ではない。
みなさまも、近場にある欄干について
考えるよい機会かもしれませんね。 |
