KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百四拾八・・・巣

チョロチョロチョロリン

「たくさんの蟻さんが歩いておりますね」

金玉を太ももで挟み込み、
地面にしゃがんで観察に余念がないのは、
弟子の北小岩くんであった。

「コガネムシを運んでおります。
 なんという力持ちなのでございましょうか」

弟子は非力で有名で、
たくさんのエロ本を運んだ際に、
肩を脱臼しそうになったほどである。

「蟻さんはよく働きますね。
 それに引き替えうちのお師匠さんは・・・」

町中の人誰一人として、
小林先生が真面目に働いているところを
見たものはいない。
唯一真剣になるのは、利き酒の名人の如く、
利きエロ本する時だけなのだ。

「先生は『働かないことが働くことである』と、
 一見哲学者のような、
 しかし、よく考えるとわけのわからないことを
 おっしゃっております」

再び行列に目をやり。

北小岩 「それにしても蟻さんたちは、
 どこに向かっているので
 ございましょうか」

ププププピ〜

「何やお前、さっきから蟻の門渡りが
 どうしたこうしたと。
 堂々とした変態ぶりやな」

品のない屁の音と共に、
品のない男がやってきた。

北小岩 「いえ先生、蟻の門渡りではなく、
 ただの蟻でございます。
 この方々はどこに
 向かっているのかと」
小林 「まあ、ついていくしかないやろな」

ともかく、お金を使わずに暇をつぶすために、
まぬけ面してとぼとぼ後を追う二人だった。

北小岩 「意外に近くにございましたね」

家を出てすぐの電柱わきに、巣があったのだ。

北小岩 「むっ、蟻の巣のそばに、
 直径5センチほどの穴が
 開いております。
 はて?
 何かの巣のように見えますが、
 何でございましょうか」

「それはね、金玉の巣なんだよ」

北小岩 「あなたさまは、どなたでございますか」

「金玉の巣に詳しい男だよ」

北小岩 「そうでございますか。
 金玉の巣というのは、
 わたくし初めてうかがいましたが、
 どういったものなのですか」
金玉の巣に
詳しい人
「蟻の巣に似てますね。
 中が複雑なトンネルになっています。
 金玉は塩がきいて、うまいのです。
 ですから、
 様々な生き物に狙われます。
 それを避けるためですね」
小林 「例えばどんな生き物や?」
金玉の巣に
詳しい人
「タマクイです。
 長〜い舌が、ちろちろと
 トンネルをやって来て」
北小岩 「おっ、おそろしいでございます」

金玉の巣に
詳しい人
「他にも玉入れ虫というのが
 やっかいですね。
 金玉は白と赤に
 塗り分けられてしまいます。
 それから、玉入れのカゴに向けて、
 投げられてしまうのですね。
 特に秋には大運動会の
 競技種目に入っているらしく、
 入った玉を数える時に
 投げ上げられ地
 面に叩きつけられるので、
 何度も何度もやられているうちに、
 しまいにつぶれてしまうんですね」
小林&
北小岩
「・・・」

地面をこまめに観察すると、
蟻の巣の穴より何十倍か大きい
金玉の巣があるという。
しかし、そこでの生活も危険に満ちたものらしい。
はたして金玉に、安息の地はあるのだろうか。

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2011-06-05-SUN

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