KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百伍拾四・・・怪談

ちりーーーん ちりーーーん

ひゅ〜、どろどろどろぅぅぅぅぅ〜〜〜

郵便屋さん 「ゆうびんですよぉぉぉぉぉ〜〜〜]
北小岩 「は、は、は、
 はいぃぃぃぃぃ〜〜〜」

郵便屋さんのおどろおどろしい声色に、
恐怖の色を浮かべつつ受け取ったのは、
弟子の北小岩くんであった。
ちなみに
「ひゅ〜、どろどろどろぅぅぅぅぅ〜〜〜」は、
わざわざ郵便屋さんがラジカセを持ってきて、
効果音を出したのであった。

北小岩 「また、
 この季節が巡ってきてしまったのですね」

沈痛な面持ちで手紙を握り締めていると。

小林 「今年もあの会に出ないとあかんのかな」

弱肉としての勘が尋常でなく鋭い先生が、
手紙の内容を透視した。
実は先生と北小岩くんは、大の怖いもの嫌い。
しかし、今の時期になると、
必ず恩師から怪談の会への誘いが届くのだ。

小林 「やはり恩師の誘いは断れんな・・・」

会は奥深い山の洞窟で行われる。
二人は鈍行を乗り継ぎ、
山道を7時間歩いて洞窟にたどり着いた。

恩師 「やあ、まってたぞ。
 今年もとびきりの怖い話を
 用意しているからな」

洞窟の中では蝋燭の灯りが揺れ、
涙を流した仏像がポッとうつしだされている。

北小岩 「昨年の手の話は怖かったですね」
小林 「そうやな。三ヶ月間
 夜のトイレに行けなくなったからな」

昨年の話とは、丑三つ時に窓の外に
手だけが貼り付いていて、
それがおいでおいでをしたと思ったら、
いつの間にか窓を通り抜け、
畳を物凄い勢いで這ってきて、
足を上って目の前に迫ってきたというものだった。

二人は怖さを感じると、
なぜか急所を握る癖がある。
迫真の語りに背筋が凍り、
そこを握ったままちぴってしまったのだった。

恩師 「今年の語り部から聞いたんだけど、
 昨年同様、手がでてくる話らしいよ」

二人の表情に暗雲が垂れ込める。

今年の語り部 「では始めましょうか。
 まずは一つ目の話。
 二年前、真夜中に私が
 トイレで用を足した時のことです。
 大便をして、それをしばらく眺めていた。
 すると!」

師弟は、すでに股間を握り締めている。

語り部 「突然大便からにょきっと手が出てきて!」

師弟はおにぎりをにぎる様に、力を強める。

語り部 「大便の匂いを嗅がすために、
 あおぎだしたのです!
 臭いのなんの!!」
小林&北小岩 「?」


二人の股間を握る力が弱まる。

語り部 「では二つ目の話です。
 三年前私が
 真夜中に屁をこいた時のことです!」

師弟は再び股間を握る。

語り部 「屁の匂いの中から手が出てきて、
 あおぎだしたのですね!
 臭いのなんの!!」

二人の手がゆるんだ。

小林 「俺たち、怖い話に強くなったようやな」
北小岩 「そうでございますね」
小林 「今年は夜中に、
 大手を振るってトイレに行けるわ。
 わはははは」

 
強くなったのではなく、
明らかに人選ミスであろう。
夜中に手だけが現れる。
それは誰にとっても、怖ろしい。
だが、大便や屁の匂いをあおぐと、
とたんに怖くなくなってしまう。
考えてみれば、不思議な事である。

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2009-08-16-SUN

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