KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百拾四・・・雨宿り

ズザザザザー。

北小岩 「凄まじい豪雨でございますね」
小林 「地球温暖化のせいなのか、
 ようわからんが、
 この季節に不似合いな降りやな」

ボロ市に出かけた先生と弟子であったが、
帰宅途中どしゃぶりにあい、駅で足止めをくらった。
構内は傘を持たない人でごった返している。

男A 「夏でもないのに、まるで夕立ですね」

見知らぬ男が話しかけてくる。

小林 「朝だちはしょっちゅうなんやが、
 夕立は珍しいですな」

先生の品のない冗談に、思わず苦笑する男。
その時だった。

「冷えますねえ。いかがですか。
 石焼き芋おいしいですよ」

男A 「ほほう。おいくらですか」

「いえいえ、お金などいりません。はい、どうぞ!」

男はほくほくの焼き芋を配りだした。

小林 「噂には聞いとったが、初めて会ったな」
北小岩 「どなたでございますか」
小林 「彼は通称『雨宿りさん』。
 なかなかの男らしいで」

数十人の体が、お芋であたたまった頃、
雨宿りさんが声をあげた。

雨宿り
さん
「お急ぎの方もいらっしゃることでしょう。
 私ができる限り多くの人を
 家までお送りいたします」

言うやいなや、直径10メートルもある傘を広げた。

雨宿り
さん
「むうううううううッ」

風に煽られながらも、応援団の旗手のように、
傘を支える。

雨宿り
さん
「さあ、どうぞ」

小林 「せっかくだから、
 いれてもらうことにしよか」
女A 「わたしもお願いします」

男女あわせ、十数人が傘のもとに集結した。

雨宿り
さん
「では、しゅっぱ〜つ!」

雨脚は強いが、みんなの足取りは軽い。

男A 「こんなに大きな傘で、
 これだけの大人数が一緒に歩くなんて、
 わくわくしますなぁ」
女A 「そうね。
 大人の遠足みたいで楽しいわね」

皆の衆、軽快に歩いていたのだが、数十メートル進むと。

ブッ!ブッ!

先ほどの芋がきいたのか、
そこかしこからおならの音がした。

男A 「いやあ、こいてしまいましたな」

ブッ!

女A 「わたしも・・・
 恥ずかしい・・・」
男B 「いいじゃありませんか。
 みんなで屁をこきながら歩くなんて、
 それもまた一興ですよ。
 どうです。
 この先に私の家があります。
 極上の日本酒が、
 地方の友達から何本も送られてきました。
 『熟女盛』に『処女誉』。
 そうそう、大吟醸の『大金玉』なんていう
 銘酒もありますよ。
 このメンバーで、飲みませんか?」
女A 「わたし、『大金玉』大好き!」
小林 「ではお言葉に甘えて、
 一杯いきまひょか〜」
女A 「でも、もしまたおならがでたら、
 どうしよう・・・」
男B 「気にしない気にしない。
 今宵は『ブッ礼講』ということで」
一同 「わはははははははは」


こうして同傘の仲間たちは、ハートフルに交流を深めた。
類まれなる方法で、
そのきっかけをつくった『雨宿りさん』。
かなりの男であることは、間違いない。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2008-11-09-SUN

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