KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百弐・・・蚊


北小岩 「ふう、
 ギラギラ太陽でございます」

通販でだまされて買った女体の匂いつきハンカチで
額の汗をぬぐう弟子。
八百屋で百円にまけてもらった
小玉スイカをかついでいる。

北小岩 「むっ、
 あそこに数人の
 益荒男が倒れております」

何かと物騒な昨今。
この町にまで危機が迫ったのか。
介抱しようと全速で駆け寄る。
まずは一人目。

北小岩 「大丈夫でございますか。
 あっ、あなたは町で
 一番強いと言われている
 拳(こぶし)さんではないですか」

拳氏といえば、
東洋チャンピオンも狙えるという噂の
プロボクサーであった。

北小岩 「拳さん!
 拳さん!」
「ふうっ」

息を吹き返したようである。

北小岩 「ああ、よかった。
 拳さんほどの方が
 ノックアウトされるなんて、
 犯人は誰なのですか」
「いやあ、北小岩さん。
 心配させて悪かったね。
 実は俺をノックアウトしたのは、
 俺なんだよ」
北小岩 「と申しますと?」
「近頃、隣町から蚊が押し寄せてきて、
 困っているんだ。
 その蚊は特殊な性向を持っている。
 何せ、局部だけを狙って刺すんだ。
 今も短パンのワキから入って、
 玉金の血を吸いやがった。
 あんまり頭にきたもんだから、
 ついアッパーを繰り出したら、
 思いっきり玉をえぐってしまって
 このざまさ。
 俺はいつでも相手のチンを狙っているけど、
 自分のチンに決めてしまうとはな。
 はははは」


力なく笑う。

北小岩 「とくかく大事に至らなくて
 よかったでございます」

二人目に近づく。

北小岩 「ダーツ名人ではありませんか。
 これは酷い!
 玉金にダーツがささっております」
ダーツ氏 「ああ、君か。
 蚊にだけは気をつけなさいね。
 ダーツで仕留めようと思ったら、
 この有様さ」

北小岩 「まったくもって恐ろしい
 モスキートでございます」

果たして三人目は。
倒れている男のそばに、
ビリヤードチャンピオンが
血の気を失った顔で立っている。

ビリヤード
チャン
ピオン
「友だちの玉金に蚊が止まって・・・。
 俺のことは気にするな、
 一思いにキューでつぶしてくれ!
 と言われて突いたら、
 こんな結果になって・・・」
北小岩 「あなたが悪いのではございません。
 すべて蚊のせいでございます。
 男性の被害が多いようでございますが、
 女性はどうなのでございましょうか」

ちょうど向こうから、
顔見知りの美人若奥さんが
股に手を当てて歩いてきた。

美人
若奥さん
「恥ずかしいわ。
 実は昨日の夜、大切なところを刺されて、
 それからずっとかいているのよ」
北小岩 「うっ、
 ささやかに興奮してまいりました。
 向こうで井戸端会議をしている
 おばさま方はどうでございましょう」
おばさまA 「蚊?私たちぐらいになると、
 蚊も恐れ多いと思うんでしょ。
 そんな失礼なことしてこないわ。ね」
おばさまB 「そうよ。
 秘所を刺されるなんて、
 淫乱なんじゃないの」

しかし、威勢のいいことを言う割りに、
さみしげな目をしているのを、
北小岩くんは見逃さなかった。
美人若奥さんに確認すると。

美人
若奥さん
「あの人たちはね。
 ここ何年も夫に構ってもらえなくて、
 くもの巣がはっているのよ。
 だから、蚊は決して近づかないの」
北小岩 「・・・」

とっ、とにかく隣町の蚊は手強いようです。
みなさまも股間の血を吸われたからと言って、
むやみに攻撃することはデンジャラスですので、
お気をつけくださいませ。

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2008-08-17-SUN

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