KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百八拾六・・・体現


小林 「たまにはええやろ」

先生と弟子、馬鹿二人は
濁り切った心を濾過するため、
せせらぎの音を味わいつつ露天風呂につかっている。

北小岩 「命の洗濯機を回すというのは、
 まさにこのことでございますね」

頭にタオル。
鼻の下を伸びきらせ、
ワケのわからないことを呟く。

北小岩 「むっ、
 今不自然な風が吹いてまいりました」
小林 「あそこを見てみい!」
北小岩 「うおうっ!」

驚いて立ち上がった拍子に、
弟子のシロナガスが水面からジャンプ。
凝視した先生はあまりの大きさに
一瞬般若の形相になったが、何とか気を取り直し。

小林 「あそこにいるヤツの頭の上に、
 木の葉が舞っとるやないか。
 頭の真ん中から風を吹かせとるに違いない!」

先生が話し終えるかどうかのタイミングで、
木陰から男が飛び出し、
なれなれしく話しかけてきた。

教官 「しっけいしっけい。
 この谷一帯は修行の場になっているのです。
 私はその教官であります」
北小岩 「話が飲め込めません。
 いったい何の修行なのでしょうか」
教官 「一言で言うと、
 身体言語を体現するために
 鍛え上げているのです。
 身体言語とは、私の解釈では体の部位、
 及び性格、人格などを用い、
 表現された言葉です。
 それを身を持って実践するのです」
北小岩 「なぜあの方は頭から風を?」
教官 「彼は先頃、
 『つむじ風』をマスターしたのですな。
 超優秀者です。
 滝にうたれながらつむじに全神経を集中させ、
 ついに風を出せるようになりました」



北小岩 「大したものです。
 つむじからあれだけの強風を吹かせるなんて、
 並の人間にできることではございません。
 あちらに生真面目過ぎるお顔で
 直立不動の方がいらっしゃいますが」
教官 「いいところに気がつきました。
 近づくのは危険ですよ。
 彼こそ真面目中の真面目、『糞真面目』です。
 石部金吉な上に、
 実際に糞をつけて歩いているのですから
 手に負えません。
 彼と『糞度胸』の持ち主は、無敵ですね」
小林 「腹筋を鍛え上げているヤツもいるようやな」
教官 「『腹が立つ』を体現しようとしています。
 しかし、まだまだ修行不足で
 腹を立てることができずに、
 あそこがたってしまいます」
北小岩 「あはははは。
 あの二人は何ですか?
 一人がワキの下を見せて、
 一人が膝を動かし続けておりますが」
教官 「ワキの下の男は、
 『わきが甘い』の習得を目指しています。
 ワキの下から甘い汁をだそうと必死です。
 熊がハチミツと間違えて
 舐めに来れば合格ですね。
 膝の男は『ひざが笑う』。
 関節から笑い声のような音を出せれば
 マスターです」
北小岩 「お尻を浮かせている女性がおりますが」
教官 「『尻軽女』ですね。
 屁のかわりにお尻の中にヘリウムガスをため、
 宙に浮かせる訓練です」



小林 「あそこの女は、
 全裸で足を開きひなたぼっこを
 しているだけのようやが」
教官 「もちろん陽にあたっているだけでは
 ありません。
 あれでも立派な身体言語です」
北小岩 「もしや」
教官 「そうです」
小林 「『おめこぼし』か‥‥」

今日も谷では、言葉を己の血肉とするために
過酷な修行が続けられている。
みなさまがもし連休中、
清流そばの露天風呂に出かけられましたら、
注意深く観察してみてくださいね。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2008-04-27-SUN

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