KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百八拾伍・・・欲


北小岩 「またでございますか!」

日頃は裏庭の苔のように物静かな北小岩くんが、
声を荒げた。

小林 「どないした。
 亀が頭を締め付けられたような声を出して」
北小岩 「はっ。申し訳ございません。
 新聞を熟読しておりましたところ、
 また見つけてしまったのです」
小林 「股見つけた?
 それはエロい女の股か?」

弟子を笑わそうと
会心のギャグを飛ばしたつもりの師であったが、
むなしく空回りした。

北小岩 「お手本となるべき人、
 絶対にそのようなことを
 してはならない職にある人が、
 下半身関係の事件で次々捕まっております。
 もちろん他の人が罪を
 犯していいというわけではありませんが」
小林 「そのことやな」
北小岩 「わたくし、これほど裏切られた気持ちに
 なったことはございません。
 大いに憤慨しております。
 それと同時に、
 男のあまりに悲しく情けない性を
 思わずにはいられないのです」
小林 「その通りや。
 男はな、自分の性欲を甘く見すぎとる。
 この世で性欲ほど恐ろしいものはない」
北小岩 「確かに
 これほどコントロールの難しいものは
 ございません。
 果たしてどのようにすれば」
小林 「俺は町の知恵者に教えを受けたことがある。
 それが解答とは言い切れんが、
 参考にはなるかもしれんな」

二人は町の最北端にある掘っ立て小屋にすむ
知恵者甲と乙を訪ねた。
まずは乙の意見を聞く。

知恵者乙 「性欲は暴れだすと、いとも容易く主を
 内部から食ってしまいますな」
北小岩 「乙さんはそのために
 何か対策を立てていらっしゃるのですか?」
知恵者乙 「まともに戦うことはあきらめています。
 だから懐柔策をとっています」
北小岩 「どのような?」
知恵者乙 「性欲に毎年お中元やお歳暮を贈るのです。
 まあ、ご機嫌とりというところですね」
小林 「何を贈るかがとても難しいんや。
 MAXまで興奮しているはずなのに、
 なぜか性欲が減退するエロ本や
 おもちゃなどが、今のところ有効なようや」

北小岩 「しかし、それではいずれ主導権を
 向こうに握られてしまいそうです。
 もう少し迫力のある方法は
 ないものでございましょうか」
小林 「知恵者甲はんの出番や」
知恵者甲 「脳内に猛り立つ性欲が発生した時、
 私はそれと対抗するホルモンを出します。
 そして、性欲がそれ以上
 攻め込んでこないように、
 ホルモンで強靭な陣形を敷くのです。
 得意な形は、鶴翼の陣ですね」

小林 「誰にでもできる芸当やない。
 何度も気絶するほどの厳しい修行を
 積んだものだけがなしえること。
 性欲のヤツも、
 簡単には攻撃してこれないからな」
北小岩 「鶴翼・・・。
 鶴が羽を広げているような美しい布陣。
 諸葛孔明考案といわれていますね。
 カッコいいです!
 わたくし、付け届けをするよりも、
 自分の脳を鍛えて
 その陣形で戦いたいと思います」

善人を絵に描いたような男でさえ、
欲望を抑えきれずに一瞬で人生を棒に振ってしまう。
男ならば決して他人事ではないのである。
ここに挙げたのは二つの事例でしかない。
だが、自分の意思と
性欲のパワーバランスを考える上で、
若干のヒントにはなるかもしれない。
性欲は身を滅ぼすほどに恐ろしいものなのだから。
各自がその重さを受け止め、
自分の方法で折り合いをつけていくことが、
ますます重要になってくる気がしないでもない。

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2008-04-20-SUN

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