小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき
言の葉を一つ一つ採取し、

深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百六拾壱・・・調和


「ご臨終されました‥‥」

「何がや?」

「あの小さくて可愛らしい」

「お前のちんちんでも成仏したんかい?
 それは可愛いというより、醜悪の極みやから違うな」

弟子の北小岩くんのブツはかなりの大物である。
矮小でおぞましく、
一刻でも早くこの世から消え去るべきは
先生の粗品であろう。

北小岩 「そうではございません。
 先日飼い始めたメダカさんが
 亡くなってしまわれたのです」
小林 「またか。
 今の水槽では
 うまく調和がとれてないんやろな」
北小岩 「どうすればよろしいのでしょうか」
小林 「俺に心当たりがある。
 隣町に相撲部屋があったやろ」
愚かな師がまたわけの分からないことを言っている。
メダカ問題解決の糸口が、
なぜ相撲部屋にあるのだろう。
阿呆な二人はすり足で部屋に向かった。

ピターン!パーン!ピターン!パーン!

力士たちが四股を踏み、鉄砲の音を轟かせている。
北小岩 「わたくしたちは、
 このお部屋に
 入門するのでございますか?」
小林 「あほぬかせ。
 俺は年々体力が落ちてきて、
 今では小学生にさえ
 寄り切られてしまうほどや。
 そうではない。
 あそこにおられる方を、
 目ん玉おっぴろげてよく見てみい」
白髪の力士があぐらをかいている。
まわしを透明プラスチックが覆い、
中は水でちゃぷちゃぷいっている。
北小岩 「変わったまわしですね」
小林 「そんじょそこらのまわしやない。
 全体が調和水槽になっていて、
 メダカを飼育しとるんや!」
北小岩 「なんと!」
小林 「あの方は現役を引退してから、
 10年間まわしをはずしたことがない。
 そこにこびりついた
 糞やメダカのフンなどが、
 バクテリアに分解され陰毛の栄養となる。
 氏ほどになると、
 たまに陽光に当てるだけで
 陰毛が光合成し酸素を放出する。
 お毛けは水草の役目をし、
 生き物のエサにもなる。
 砂を敷きつめタニシやエビも
 入れているので、
 壁面についた藻も
 ばっちり掃除してくれるんや。
 いずれメダカは
 陰毛に卵を産みつけお子様誕生。
 動物、植物、日光が
 ほどよく調和した見事な水槽やな」
北小岩 「なるほど。
 この方法でメダカを飼えば、
 今後全滅させてしまう愚は
 避けられますね」
小林 「そうや。
 だから今日から
 お前がまわしを締められるよう
 頼んでおいたわ。
 元小結・玉の島はん、
 いいまわしありましたか?」
白髪の
引退力士
・玉の島
「ああ。
 さっき新弟子が
 下痢をしているのにふんばりすぎて、
 仰山チビりやがった。
 こりゃ、
 ほどよい肥やしになるんじゃないかな」
北小岩 「げげっ!」



あはれ蚊のような、
か細い抵抗を試みた北小岩くんであったが、
ここは相撲部屋。
体重が200キロ近くある力士に羽交い絞めされると、
他の力士にパンツを脱がされ、
糞のこびりついたまわしとプラスチックを
装着されてしまった。

忌まわしい出来事に嗚咽をもらしながら
帰宅した弟子であったが、
気持ち悪さに耐えかねまわしを即座にはずした。
が、時すでに遅し。
まわしの持ち主がいんきんたむしであったため、
脅威の粘り腰を持った菌に犯されてしまった。
ここに永久メダカ計画崩壊。
それにしても馬鹿な師をもった弟子は、
逝去したメダカのように物悲しいものである。

2007-04-22-SUN
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