小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百四拾四・・・街角


「和服と腕に巻かれた布のコントラストが、
 猥雑な印象を醸し出しておりますが」
着流し。
二の腕あたりに、金色地に赤で
『犯』と書かれた太い腕章。
北小岩くんが不審に思うのも無理はない、
小林先生の出で立ちだった。

小林 「いやな、
 近頃町内に空き巣やひったくり、
 変質者などが出没するようになってな。
 町内会から、出歩く時には
 腕章をぜひにと懇願されたんや。
 犯人へプレッシャーをかけ、
 犯罪の減少に役立たせるためにな」
とはいえ、今の姿でもかなり怪しい上に、
先生は公園で読むためエロ本を手にしている。
これでは、不審者と間違われ
連行される可能性が大である。
北小岩 「腕章をつけた大人が
 大勢徘徊するのも
 効果があるかもしれません。
 しかし、ちょいと他町で
 見聞したことがございます。
 今日はぜひ、
 わたくしに案内させてください」
先生はエロ本を懐にしまい、
威風堂々と歩を進める北小岩くんに従った。
北小岩 「これから出張るのは、
 区のはずれにある的射町です。
 もしかすると流れ弾が
 飛んでくるかもしれませんから、
 お気をつけください」
小林 「物騒な話やな。
 それほどの凶悪犯がおるんかい」
二人が的射町に足を踏み入れたその時だった。
若い女性 「ひったくりよ、早く投げて!」
街角に置かれた台に立っていた男は叫び声を聞き、
鞄から黄土色の物質を取り出した。
大きく振りかぶると、
ひったくりの顔面目掛けて投げつけた。

グショ!
小林 「むっ。あれは糞やな。
 見事な速糞や。
 鼻面で砕け散り、
 目、口、耳、鼻
 すべての穴に入り込んだ」
北小岩 「投げ手は
 『街角さん』と呼ばれております。
 選りすぐりの
 強肩&コントロールの持ち主たちが、
 24時間交代で角々に立っているのです。
 犯人は糞を顔にぶつけられたショックで、
 この町には近寄らなくなります。
 街角さんを配置してから、
 犯罪率は10分の1に減りました」
小林 「なるほどな。
 だが犯人だって
 そうそうぶつけられてはいないやろ。
 もし、首を傾げられたらどうするんや」
北小岩 「問題ございません」
男の二投目が、
ひったくり野郎にうなりをあげる。
野郎は首を左に倒してよけようとした。
だがシュート回転した凶器は、
目と鼻をべっとり覆った。
小林 「うむ。
 糞投げの世界にも、
 カミソリシュートがあったか」
北小岩 「それだけではありません。
 あの方は、
 カーブ、フォーク、ナックル、パーム、
 カットボールなど、
 七色の魔糞を投げ分けます。
 特に剛速糞がくると読んで屈んだ相手が、
 もう通過したと思って
 安心して体勢を元に戻した時に
 糞がヒットするチェンジアップは、
 華麗の一語です」
小林 「犯人が
 ヘルメットをかぶっておる場合は?」
北小岩 「足元に
 ワンバウンドになるフォークを投げ、
 すべって転んだところで
 ヘルメットの中に糞をトスします。
 そしてメットごと
 前後左右に大きく揺らして、
 ブツはミキサーにかけられたような状態で
 何度も何度も顔に‥‥」
小林 「一生のトラウマになりそうやな。
 確かに腕章よりも、数十倍の効果がある。
 今度の町内会議で、
 街角さんの導入を強く薦めておくわ」

投げ手に選ばれし者は、まず動物園に行き、
ゴリラからウンコの投げ方を学ぶ。
基本をマスターしたら、
それぞれが握りに工夫をこらし、
変化球を習得していくのだ。



日本各地で頻発する犯罪。
街角さんの魂を込めた投糞が、
犯罪抑制に役立ってくれることを願ってやまない。

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2006-02-26-SUN

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