小林秀雄のあはれといふこと

しみじみした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百参拾・・・迷路


とるるる とるるる がちゃ。

小林 「はい、小林です。
 ほほう、少々お待ちくださいな。
 北小岩、電話やで!」
北小岩 「どなたからでしょうか」
小林 「若い女からや」
先生宅に妙齢の女性から電話が掛かることなどない。
会話に耳を澄ましてみよう。
北小岩 「先日はあのような場所で、
 とんだ粗相をいたしまして‥‥。
 いえいえ、大変申し訳ございません。
 お互い様? それは違います。
 わたくしは単に見苦しく、
 あなたは神々しい限り。
 荘厳でさえありました。
 えっ、そっ、そんな。
 照れてしまいます。
 ではまたその時に、ゆっくりと」
ふにゃ〜。
北小岩くんの鼻の下は伸びきり、
そこに受話器を掛けておけそうなほどである。

小林 「向こうで女が
 『チュッ!』とキスした音、
 聞き逃さなかったで。
 なぜ俺より格下のおまえばかりが、
 ええ思いをするんや。
 ズバッと白状してみんかい!!」
北小岩 「はい。3日ほど前のことなのです。
 古本の掘り出し物を見つけるため、
 朝一番で市へと向かいました。
 途中で尿意をもよおしたため、
 公衆トイレを探したのです。
 不思議なことに、
 記憶にはない場所に
 トイレの看板がかかっておりました。
 三百円払って、
 通路を奥に進むようになっています。
 高いとは思いましたが、
 膀胱に腹は変えられぬ状態でしたので」
それが女性とどう関係するのだろうか。
北小岩 「ところがそこから
 大変複雑な迷路になっていまして、
 行けども行けども
 肝心のトイレには着かないのです。
 諦めて出ようとしたのですが、
 道がわからなくなりました。
 まるで樹海です。
 出るに出られず
 気がつくと同じ所を
 ぐるぐる回っておりました」
小林 「そこで女と出会ったわけやな」
北小岩 「そうなのです。
 数十人が同時に
 迷っていたようなのですが、
 その女性とは何度も何度も会いました。
 妙な共同意識が芽生えるものですね。
 その日が初対面だったのですが、
 何度目かの出会いで
 『あなたの後を
  着いていってもいいかしら?』
 と言われたのです」
小林 「ほほう」
北小岩 「2時間ほどたった頃でしょうか。
 彼女の歩き方が極端な内股になり、
 顔が上気してまいりました。
 小声で『もうだめ!』と。
 わたくしの膀胱および括約筋は
 いささか余裕を残していたのですが、
 先に失禁させて
 恥をかかせるわけには参りません。
 彼女がお漏らしする前に、
 ズボンをはいたまま
 大量放水いたしました。
 そして言ったのです。
 『すみません。
  粗相してしまいました。
  もう何も恥ずかしがることは
  ありませんよ。
  我慢するとカラダに毒ですからね』
 と。
 彼女はこくりとうなずき、
 わたくしに身をあずけると、
 目を閉じて失禁いたしました。
 なぜかわからないのですが、
 粗相をしたら
 トイレまでの道が開けました。
 そこには着替え用の紙製の下着が
 置いてあって」
小林 「なるほどな。
 極限状態を共有すると、
 男女は一時的に
 深い恋愛状態に陥ってしまうんや。
 ええこと聞いたわ。
 さあ、今からそこに
 案内してもらおうやないか」
己の魅力で
女性をゲットできない小林先生は、
卑劣にもその状況を利用しようとした。
入口で三百円払い、目をぎらつかせながら入場。
だが3時間以上たっても、誰からも声をかけられない。
業を煮やし、自から行動に出た。
小林 「すんまへん。
 なかなかたどり着けなくて、
 とても不安なんやけど‥‥。
 一緒に行ってもかまへんか?」
女性は乗り気ではなさそうだったが、
一人で探すよりはマシと思ったのであろう。
しぶしぶ承知した。
それから30分後、
彼女のがんばりも終焉の時を迎えようとしていた。
先生はしめた! との思いをひた隠した。
小林 「女性に恥をかかせるわけにはいきまへん。
 まずは僕が」
先生は尿用の括約筋を開こうとしたのだが、
思わず肛門筋が緩み、脱糞してしまった。
女性 「くっ、くさ〜〜〜い。
 あんたどういうつもりなのよ!」
小林 「あなたに恥をかかせないように」
女性 「何わけのわからないこと、
 言ってるのよ。
 汚らわしい。あっち行け!」

電光石火の回し蹴りが下腹に入り、
先生は脱糞に失禁という人間失格状態に
追い込まれてしまった。
その後トイレにたどり着けたのではあるが、
替えの下着が切れていたため電車に乗ることもできず、
そのままとぼとぼ&ぼとぼと家路をたどった。

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2005-05-22-SUN

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