小林秀雄のあはれといふこと

しみじみした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百弐拾九・・・尼


「先生、お願いします!
 翻意をうながしてください!!」

青ざめた顔であばら家の戸をたたくのは、
大竿挿満(おおざおさしみつ)氏であった。

小林 「そんなにあわててどないした。
 誰の翻意をうながせ言うんじゃい」
そっけなく言い放った。
大竿氏は先生の知り合い唯一のイケ面。
幼少のみぎりからこうがん(睾丸)の
美少年の名を欲しいままにし、
ハンパでないモテ方をしてきた。
そのため性体験も豊富だが、
先生はご存知の通り、
素人さんに対するちんちんの使用頻度が高い男を
毛嫌いしているのである。
大竿 「ナニを隠そう、
 翻意して欲しいのは
 俺のナニなんです!
 イチモツが突然、尼になりたいと
 言い出したんです!!」
小林 「なんと!」
話が飲み込めないため、
先生は直接彼のイチモツと話をすることにした。
イチモツは途中で大竿氏が口出しすることを嫌ったため、
先生とイチモツが話し合う時には目隠し、
耳栓することを条件とした。
社会の窓から大物が顔を出した。
それは黒くにぶい光を放ち、歴戦を物語っていた。
小林 「尼になりたいということやが、
 どういうことなんや?」
イチモツ 「大竿はご覧の通りモテモテです。
 あのフェイスで口説き文句も絶品。
 いつでも美人にちやほやされ、
 僕もだいぶいい思いをしました」
小林 「ふ〜ん。それはよかったな」
先生が憎々しげに突き放す。
イチモツ 「しかし、いつしか疑問を
 持つようになったのです。
 女性は常に本気で
 大竿のことを思っていました。
 でも彼はすべて遊び。
 それを知った女性は深く傷つき、
 時にはノイローゼになって
 入院することもありました。
 それなのに大竿はおかまいなしに
 次から次へと‥‥」
先生は怒りのあまり
親指を人差し指と中指の間から突き出し、
固く拳骨を握った。
イチモツ 「僕は嫌悪のあまり、
 そのような場面になっても
 抗うようになりました。
 だけどいかんせん、
 大竿の脳のシモベでしかありません。
 抑制しようと思っても、
 刺激には適わない。
 結果的に女性を深く傷つけることに
 加担してしまいました。
 もう耐えられないんです。
 大竿と永遠に別れ、
 俗世を捨て今までの罪を償うしかない。
 そして毛を丸め、
 尼になる決意を固めたのです」
小林 「そうやったんか‥‥。
 てっきりお前もグルやと思っとった。
 モテ男(もてお)憎けりゃチンまで憎い。
 その考えは改めにゃあかんな。
 大竿よ、お前のイチモツは
 なかなか立派な方や。
 確かに姿かたちも立派やが、
 なんとも立派な志や。
 俺が翻意を促すなど、
 お門違いのようやな」
大竿 「それでは俺のイチモツは‥‥」
息子 「お世話になりました。
 いい思いをさせていただいたこと、
 感謝しております」
息子は大竿氏の股間を離れた。
その部分にはぽっかりと穴が開き、
後にはしなびた袋、
大ぶりのふたつの玉だけが残った。

大竿 「ごっ、ごめん。俺が悪かった」
イチモツ 「お元気で。さようなら‥‥」
息子は振り返らずに、
左に傾きながら歩いていく。
大竿 「もう絶対に女性を傷つけないから、
 戻ってきてくれ!
 チーン、カムバ〜〜〜〜ック!!」
大竿氏の目からやわらかい雫がこぼれた。
小林 「気を落とすんやない。
 もう、十分やろ。十分やろ‥‥」

モテるヤツが大嫌いな先生も、
イチモツを失った男に同情し、
滂沱の涙を溢れさせた。
大竿氏はすでに、
先生の四百年分の性体験をしている。
男は自分の欲望だけに生きてはならない。
ちんちんにだって、
立派なチン格があるのだ。
欲情に棹させば流される‥‥。
多くの性体験を楽しむ者は、
この言葉を教訓に心して生きるべきであろう。

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2005-05-15-SUN

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