小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百拾四・・・歯科


「あいたたたた」
「なんや、虫歯かいな。
 はよ治さんと、えらいことになるで。
 今すぐ歯医者に行ってこんかい」
左頬を押さえてうずくまる愛弟子を、
小林先生が気遣った。
北小岩 「ありがとうございます。
 しかし、わたくし幼少の頃から
 歯医者さんを大の苦手としております。
 あのスズメバチの針のようなドリルを
 近づけられるだけで、
 頭蓋骨まで削られる気がして
 卒倒しそうになるのです」
小林 「困ったもんや。
 歯にまつわるええ思い出がないからやな。
 しゃあない、俺の贔屓にしておる
 名医さんを紹介したる」
先生は難色を示す北小岩くんの背中を
そっと押してやり、
歯科医院の門をくぐらせた。
歯科女医 「こんにちわんわん」
北小岩 「むっ!」
ピンクのノースリーブミニワンピースを着た女医を見て、
北小岩くんの瞳に光が宿った。
細身の肢体。
ワンピースの股間のあたりに、
歯をモチーフにした大きなアップリケがついている。
歯科女医 「それじゃ、ここに座ってお口をあ〜んして。
 あらあら、こんなになるまでほっといて。
 いけない子ね」
北小岩くんは赤ん坊のように
やさしく頬をなでられている。
歯科女医 「今までは有無を言わせず削られたから、
 恐怖を感じるようになっちゃったのよね。
 ほんとはね、歯の治療にも前戯が必要なの。
 前戯がないから痛いのよ」
彼女は妖艶な手つきで治療器具に触れると、
スイッチを入れた。
治療器具‥‥。
それはコードの先に特殊シリコン製の舌がついている
バイブレーター状のものであった。

歯科女医 「まずは歯のお掃除をして、
 それから歯茎をほぐすわね」
北小岩くんの歯の表面を、シリコン舌がニュルッと蠢く。
歯と歯の間をクリーニングする時には、
舌先がつんと尖る。
舌は歯から上方に移っていき、
ぬめりを持った生物のように北小岩くんの歯茎を這う。
北小岩 「あっ、あ〜〜〜」
歯科女医 「うふふ。次は口蓋ね」
口腔の上壁をさわるかさわらないかの微妙なタッチで、
舌がチロチロと刺激する。
攻撃が佳境を迎えると北小岩くんの顔が上気した。
北小岩 「はあはあはあ」
息の荒くなった獲物を見つめる女医さんの目がキラリ。
すばやく器具を舌の下に潜り込ませると、
ターボチャージャーのスイッチを押した。
北小岩 「あっ、うっう〜〜〜〜」

シリコン舌が北小岩くんのベロに絡みつく。
女医さんが手に力を込めると、
舌の裏から怪しげなローションが噴出。
強弱をつけたローリングで弄ぶ。
なまめかしい女医さんの顔が
数センチのところにあるので、
まるで彼女と舌を絡ませているような気分になってくる。
北小岩くんの大事な場所は、りっぱに角度をつけている。
彼の恍惚を確認すると、彼女は治療にかかった。
もうどうにでもして!状態の北小岩くんは、
恐怖を感じることなく治療を進めてもらうことができた。
歯科女医 「は〜い。よく我慢できましたね」
女医さんがごほうびに、
ほっぺとほっぺをくっつけてくれた。
北小岩くんは遠い目をしている。
歯科女医 「また来週しましょうね」
北小岩くんは幼児のようにこっくんとうなずいた。
治療といえどもムチだけでは限界がある。
人間にはアメが必要なのだ。
これを見習い、各医療機関は治療の前に
必ず前戯をほどこしてほしい。
人にやさしい医のヒントが、
ここに隠されているに違いない。

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2004-06-20-SUN
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