北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第8回 映画、コノヤロー。

糸井 北野映画に出てくる人は、人物だけじゃなくて、
ひとつひとつ行為も「本気」ですよね。
アクションシーンなんかでも、
振りつけっぽい動きがあんまりなくて、
いきなり「本気」が弾丸みたいに
ポンって飛び出す、みたいな。
たけし ウン。
糸井 あれは、やっぱり発明ですよね。
観ると、いつも驚いちゃうもの。
たけし 余計なこと、やんないんだよね。
糸井 そうそう。
あれは、考えて生まれた手法なんですか。
最初からできてましたよね。
たけし ウーン、あの、おもしろいのはね、
映画でアレをやるときに役立ってるのは、
オレ、漫才だと思う。
糸井 あっ、そうですか。
たけし っていうのは、オレ、
映画の悪口ばっかり言ってたからさ。
糸井 あーー、はいはいはい。
たけし 映画のネタをやるときに、
水戸黄門からなにから、ぜんぶ悪口言うんだ。
サスペンスとか、
「なんで犯人は断崖絶壁で現れるんだ」とか、
「なんで全員自己紹介しちゃうんだよ」とかさ。
おかしいじゃねェか、って。
糸井 あははははは。
たけし 「なんで事件のニュースが流れるとき、
 犯人は必ずそれ観ながら
 ラーメン食ってんだよ」とかね。
「なんで逃げてる主人公のコースに沿って
 足元に弾撃ってるんだ」とか、
そんなことばっかり言ってさ。
糸井 つまり、そこで映画を
「コノヤロー」にしたんだよね。
たけし そうそう。
だから、自分で映画撮るときに、
それをやらなきゃいいっていう。
糸井 批評家の仕事を先にしてたんだ。
たけし ウン。先にやっちゃったの。
だから、やりやすい反面、
やりにくいってのもある(笑)。
やれなくなっちゃったから。
糸井 ああ、そのお約束を、
やっちゃいけないわけだから。
たけし ウン。それで、やらないで撮ったのが
わりかし好評だったんだけど、
そればっかり続けてくると、
ちょっと、いいのかなって思ったりもするんだ。
映画のウソもあるしな、って思う。
糸井 あーー、なるほどね。
たけし 歳とってくると認めるようになってきた、
みたいなところがあるね。
若いときは「ありゃあウソだ」
ってことばっかり言ってたんだけど、
少し妥協してくるみたい。
糸井 でも、それは、
ボキャブラリーが増えるみたいなことだからね。
妥協というよりは、
豊かになったということじゃないかな。
たけし ウン。
(つづくぞ、コノヤロー)

前へ 最新のページへ 次へ

2008-09-30-TUE


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN