北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第4回 客の向こう側の視点。

糸井 どうとでもとれるようにつくった
『アキレスと亀』ですけど、
観た人の感想としては
どういう声が多いんですか。
たけし ウン、いまんとこ、夫婦愛が多いの。
糸井 ああ、やっぱりラストですよね。
たけし そーだね。
「ラスト泣きました」って言う人が多いから。
「ありがとうございます」って思うんだけど。
糸井 後ろ姿がいいんですよね。
後ろ姿って、やっぱり強い。
どんな顔してるか、わかんないぶんだけ、
観る側の「オレの気持ち」が入りますよね。
たけし ウン。想像させるから。
糸井 そうそうそう。
たけし それはね、オレの映画って、みんなそうだね。
言葉が少ない。ぜんぶ想像させる。
糸井 うん、うん。
たけし 説明すればするほど、客が離れる場合あるから。
あの場面でもね、
カメラが、前に回った瞬間に、客離れるから。
糸井 ダメでしょうね。
たけし ところが、ふたり、後ろ姿で歩いていくと、
なんか、観てるほうが、
ふたりの笑顔を勝手に想像してくれて、
いい映像を入れてくれる、みたいな感じでね。
糸井 それはだから、
「お客さんといっしょにじゃないと
 映画作れませんよ」って気持ちが
はじめからたけしさんのなかにあるんですよね。
たけし ウン。なんていうんだろ、
ま、カメラの位置ってのは、
お客の位置でもあるんだけど、目の位置が、
カメラの後ろだけだと個人的な映像になる。
糸井 あー、なるほど。
たけし 逆に言えば、その撮ったフィルムを
また、前から見るとか、後ろから見るとか、
位置関係、変えたりするのを意識しないと。
カメラの後ろだけだと、個人的な映像、
監督だけの映像になる。
糸井 うーん、そうだね。
それ、「映画を撮るぞ」っていったときから
そんなことを考えてたわけ?
たけし ウン、そーだろうね。
糸井 そんな感じ、するわ。
どうしてそんなことができたんだろうね。
たけし やっぱり、だいぶ漫才やってるからじゃない?
糸井 あぁーー。
たけし 漫才やってるときに、
漫才師は客席の顔見てるふりしてるけど、
自分は客の向こうに
(漫才を観ている客の後ろ側、
 という手振りをしながら)
いるわけだから。
糸井 そうか、そうか。
たけし それで、
客が息のんだ瞬間にしゃべれるわけだし。
「よしなさい」ってツッコまれたときは、
こんなおかしな形になってるけど、
客席からどういうふうに見えてるかって
いつも気にしてるし、センターマイクを挟んで
どの位置にいるかって、たいてい気にするから。
客からの見栄えばっかし考えてやるから。
糸井 つねに、「客の向こう側の視点」があるんだ。
たけし ウン。そーじゃないとダメで、
あまりにも夢中になると、
客は何言ってるかわかんなくなって、
本人がのってるだけで、
ぜんぜんおもしろくないってことになる。
糸井 じゃあ、たけしさんが
漫才から映画に行ったっていうのは、
お客さんから距離を置いたんじゃなくて、
ますますお客さんとの関係を
深めちゃったっていうことですね。
たけし ウン。そうそう。
(つづくぞ、コノヤロー)

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2008-09-24-WED


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