コウバイタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

「いちばん好きなきのこは?」
と聞かれたら、迷わず、
「コウバイタケです!」
と答えます。

どうです、この、凛とした姿。
そして、この、色。
ほんと、たまりません。

いま、ふと、データを調べてみたら、
いちばん古い日付のコウバイタケの写真は、
2009年9月16日でした。
HDDにあるストックは5000枚以上。
ひとつのきのこの撮影枚数としてはダントツです。
まあ、いちばん好きなきのこなんだから、
当たり前と言えば当たり前ですが。

コウバイタケは、偶然見つけました。
阿寒湖の近くにある小さな沼の周囲に広がる森で。

沼に流れ込む小さな川のほとりから、
細い木々につかまって急な斜面を登ると、
いきなり深い森に入り込みます。

適度に密集したトドマツの合間を縫い、
小さな起伏をいくつか越えてしばらく進むと、
林床がササに覆われた一帯が現れるので、
いつもはそこから引き返すのですが、
その日は、何を思ったか、腰よりも高いササ薮に突入。
両手でササをかきわけ、さらに森の奥を目指しました。

10分も歩いたでしょうか。
木々が密集する森らしい場所が再び現れました。

そこで、思わず「あ〜!」って叫んじゃいました。
なんと、そのトドマツの森の林床は、
ほぼ全面、びっしりと、コケで覆われているんです。

シカ道をたどって中へ入っていくと、
現実ではなく、おとぎ話の世界に迷い込んだようで、
もう、息をするのも忘れるほど。
はあはあはあ。

大きな岩の近くで腰を降ろして、
ペットボトルのお茶をぐいぐい飲んだそのとき、
「きのこ目」が、ピピピと反応。
そこでまた「あ〜!」と叫んだわけです(笑)。



大きな石を覆い尽くした数種類のコケの間に、
コウバイタケがすっくと立っていたんですねえ。
いやいや、その、かわいいこと、美しいこと。

なるべくコケを踏まないようにして、
何枚も何枚もシャッターを切りました。
しかし、極度の興奮状態で、
かつ、薄暗い森の中での撮影だったので、
写真のクオリティは散々でした……。

で、この日から、
阿寒に滞在している限り、
数日置きにこの場所へ通い続けることに。
その気持、わかっていただけますよね?

コウバイタケは、以前にもご紹介してます。
どうぞ、こちらもご覧くださいませ。


そして、すみません……。
ちょっとだけ、宣伝させてください。

ぼくの5冊目の著書となる、
『森のきのこ、きのこの森(玄光社)
(144ページ、税別定価2000円)』
が、2016年10月24日に発売されます。
(編集部注:下のカコミをごらんください。)

そして、その表紙は、
今回のコウバイタケの写真です(笑)。
(実はタイトルがきのこの形!)

ほぼA4くらいの、けっこう大きいサイズで、
大小合わせて150枚以上の写真を載せました。
きのこと森の雰囲気をじっくりお楽しみいただけるかと。

どうぞよろしくお願いします。


『森のきのこ、きのこの森』

きのこ写真家の新井さんの
美しいきのこ写真がたっぷりと
堪能できる一冊です。
収録きのこ写真数はなんと150点以上!
写真の他にも、きのこエッセイ、
きのこガイド、きのこコラムなども収録。
森にいくよう楽しめますよ!

そして、新井さんからもひとこと!

北海道は阿寒湖周辺の原生林、
あるいは東北地方の白神山地のブナ原生林などで、
ぼくが出会ったきのこたちの姿を、
そのきのこたちが生きている素晴らしい環境を含めて、
じっくり、じっくり、ご覧いただきたかったので、
ちょっと大きめのサイズの本になりました。

きのこのかわいらしさや美しさに加えて、
現代の日本ではすごく貴重になってしまった、
人の手がほとんど入ってないような森の雰囲気を、
同時にお楽しみいただけるのではないか、
と、ちょっぴり自負しております。

ぼくが森の中で過ごした、宝物のような時間を、
少しでも読者の皆さんにお裾分けできたらなあ……。

本屋さんで見つけたら、
ぜひ、ページをめくってみてください。

新井文彦


2016年10月24日発売
B5変型判 144ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-7683-0781-6
※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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