正解、食べられます!
ブナシメジ
食
写真と文章/新井文彦

阿寒の森へ入ると、
ガイドをしているときや友人と一緒のとき以外、
人の気配が皆無なので、きのこを見つける度に、
「お、美人さんだねえ」
「ちょっと拗ねてるけど、そこもいいねえ」
などと、きのこを目一杯、褒めて、おだてて、
シャッターを切っています。

これ、人に見られたら相当恥ずかしいですが、
先日、くまさんには見られてしまいました(笑)!
崖の下で、例によってうるさくきのこの撮影していて、
頭の上で、パキ、という木が折れる音がしたので、
シカだと思って「うるさい!」と怒鳴ったら、
逃げていくくまさんの後ろ姿が……。
崖の上からぼくのこと見ていたんでしょうねえ。
その距離、3メートルで、接近新記録です。
気をつけないと!

自分以外の人間が絶対来ないと思える場所って、
考えてみるとすごいでしょ。
そのとき、その場所の風景を見たのは、
きっと、それまでも、その後も、きっと、
世界でたった一人、ぼくだけ。
ぼくしか知らない風景なんですよね。

でも……。

悲しいかな、ぼくのニワトリ脳は、
おそらく数分もその記憶を留めておくことができず、
後からHDDに記録したデジタルデータを見ながら、
ああ、あのとき、あの場所へ行ったなあと、
心もとなく思い出すだけ……。

豚に真珠、猫に小判、
宝の持ち腐れとはまさにこのことです、はい。

さて、この写真の森は、一度伐採されたものの、
数十年の年月を経て森として再生しつつあり、
ダケカンバやカツラなど広葉樹がたくさん見られます。
笹ヤブや人の背ほどある大きなフキをかき分けて歩き、
目の前に現れたのが、もう絶妙としか言いようがない、
素敵なシェイプのブナシメジ。
どうです、この姿!

ブナシメジは、夏が終わりから秋にかけて、
ブナをはじめとする各種広葉樹の枯木から発生します。
道東地方ではブナは自生してないので、
シナノキやカエデなどの倒木で見ることが多いです。

傘の直径は5〜15cmくらい。
幼菌時には特徴的な大理石模様が見られますが、
成長するにつれ薄くなり、やがて消えてしまいます。
高さは3〜10cmで、倒木の真横から発生して、
上に向かってぐにゃっと曲がって伸びる姿も、
けっこうよく見かけます。

知る人ぞ知るおいしいきのこで、
和風、洋風、汁物、炒め物、何でもこい。
人工栽培も行われているので、
スーパーマーケットでもおなじみかもしれません。

かつて、ブナシメジの人工栽培品を、
ホンシメジと称して売っていた会社があり、
我が愛用する図鑑、『北海道のキノコ』
『山溪カラー名鑑 増補改訂新版 日本のきのこ』
の両方に、和名を混乱させた、と、
怒りとも思えるコメントが掲載されています。
いくら商売でも、ウソはダメですよね、ウソは。

それにしても、この写真のブナシメジはかわいいです。
もちろん、褒めまくって撮影しましたとも。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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