正解!食べられません。
クサハツ
毒
写真と文章/新井文彦

ずっとずっとずっと昔、雌阿寒岳の周囲は、
今も活発な火山活動を続ける雌阿寒岳自らが吹き出した、
溶岩やら火山灰やら火山礫やらが積もりに積もり、
辺り一面、岩石に覆われた不毛の大地でした。

そんな、岩や石ばかりの世界に、
養分が極端に少ない土地であっても、
栄養のほとんどを大気中の水分と光合成でまかなえる、
コケや地衣(ちい)類が進出してきます。
(地衣類は菌類と藻類など植物の共生体)

岩石の上を覆ったコケや地衣類は、
世代を重ねるごとにまるで土壌のように機能し、
たまたま飛んできたアカエゾマツのタネが、
何というか、奇跡的に発芽したと……。

アカエゾマツは、他のマツの仲間同様、
根っこを下へ縦に伸ばさず横へと伸ばすので、
固い岩石の上でも生きていくことができるんです。
加えて、貧しい栄養状態にも耐えられる生態。
さらには、他の植物には毒であろう硫黄にも強い、
ときたもんだ。

そう、雌阿寒岳の麓周辺は、
アカエゾマツのみ耐えられる環境ゆえの、
アカエゾマツのパラダイスなのでありました。

今回ご紹介する写真は、
もちろん、主役は、きのこのクサハツなのですが、
まわりを固める脇役たちの存在感!
もうたまりません。

ふわふわっとした白緑色が地衣類のハナゴケの仲間。
(地衣類は菌類ですが名前に「コケ」が付くもの多数)
その周りには多種多様のコケが見られます。

お気づきですか?
そう、この隠花植物ワールドが展開されているのは、
土壌ではなく、大きな岩石の上なんです。
写真には写っていませんが、周囲の石の上から、
アカエゾマツが大きく成長しています。

さて。
クサハツは、夏から秋にかけて、
針葉樹、広葉樹を問わず、林地で発生します。
汚黄褐色〜褐色の傘の直径は、7〜15cmほど。
湿っているときにはやや強い粘性があり、
周縁にははっきりした条線と顕著な粒構造が見られます。
高さは5〜10cmほどで、成熟すると、
中央がややくぼみ、ときに、浅い漏斗形になることも。

柄は白く、黄土色っぽい汚れやシミが見られ、
中空なので強く触るとボロボロ崩れてしまいます。

クサハツ、臭いハツ、という名前の通り、
古い油のようなイヤな匂いがします。
強い辛味があるので、万が一、誤食しても、
中毒を起こす前にまずくて食べられないと思いますが、
強い吐き気、腹痛、嘔吐、下痢など、
胃腸系の中毒を起こす毒成分が含まれます。
ご注意あれ。

コケや地衣類が、
阿寒のアカエゾマツの森の生みの親だとするなら、
阿寒のアカエゾマツの森で生きているきのこにとっても、
生みの親だと言えるわけで……。
感謝、感謝、です。

以前ご紹介した、
神々しいまでのクサハツの写真は、
こちらをどうぞ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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