正解、食毒不明です。
オオシトネタケ
毒
写真と文章/新井文彦

人工物が一切目に入らない原生林を歩くのは、
すごく楽しいことですが、きのこファンとしては、
それよりも、枯木や倒木の存在がたまらないんです。

自然の森と言えば倒木、倒木と言えば自然の森。

公園や庭園など人工的に構築された自然環境では、
枯木や倒木はおそらく厄介者でしかないので、
すぐに撤去されちゃいますからね……。

ぼくは、きのこや粘菌やコケや地衣類など、
いわゆる隠花(いんか)植物が大好きなのですが、
そういうマニアックな人間にとって、倒木は、宝の山。
きのこや粘菌を効率的に探したいのであれば、
とにかく倒木をじっくり観察するに限ります。

今回ご紹介する写真を、改めてご覧あれ。
皆さん、ぱっと見たときは、おそらく、
コケに覆われた倒木に変な形のきのこが生えている、
と感じていたのではないかと思うのですが、
どうです、どうです、ほら、ほら……。

まとめて「緑のコケ」に見えていたものが、
よくよく見てみると、実は、いろいろな種類があり、
色も形もまったく別モノ、ということに、
ほら、ね、気づいたでしょ。

この、今まで見ていたものを、
まったく違うものとして認識するってことは、
何かを発見するということでもあり、
自然観察の醍醐味はまさにここにあるんですよね。

ちなみに、
茶色い円形の3つのオオシトネタケのうち、
いちばん上の右隣に生えていて肌色の粒を持つのは、
コケではなく、菌類と植物の共生体、地衣類です。

オオシトネタケは、春に発生するきのこで、
(阿寒湖周辺では、初夏にお目見えします)
広葉樹、針葉樹を問わず腐った木から発生します。
しわだらけで、周囲がうねうねした、椀形〜皿形で、
表面は黄褐色〜暗赤褐色、裏側はやや淡い色合い。
「円」の直径は、5cmにもなり、
めくって裏側を見ると太くて短い柄が確認できます。

名前にある「しとね=褥」とは、
座ったり寝たりするとき下に敷く敷物、の意。
まさに、そのとおりの形ですな。

これにそっくりなきのこで、
フクロシトネタケってのがいるんです。
顕微鏡を使って胞子を観察しないと、
正確には同定できないのですが、
一般的には、フクロシトネタケは広葉樹から生え、
オオシトネタケは広葉樹でも針葉樹でも生えるとか。

この写真のきのこは、
針葉樹のトドマツから生えているので、
オオシトネタケ、と同定しました。

オオシトネタケ、フクロシトネタケともに、
毒きのこなので、この手のきのこは、とにかく、
食べないようにしましょう!
もし食べてしまった場合は、毒成分は不明なものの、
下痢や腹痛など胃腸系の中毒症状が出るとか。

それにしても、どうです、この倒木の素晴らしさ。
自らは死んでしまっても生の気配に満ちています。
虫眼鏡やルーペがあろうものなら、
それぞれのコケの葉っぱを見ているだけでも、
数時間は軽く経ってしまうほど魅力盛りだくさんです。

そして、そして、
この倒木の裏側には、新たなるきのこに、粘菌……。
その話は、また別の機会に。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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