シロキツネノサカズキモドキ
食不適
写真と文章/新井文彦

きのこ、と言えば秋。
世の中にそう思っている人の多いこと、多いこと。
あのマツタケやホンシメジなどなど、
超絶的においしい天然きのこが生えるのは秋だし、
俳句などでも、きのこは秋の季語だし、
ま、仕方ありませんな。

もちろん、
きのこが生えるのは、秋に限ったことではありません。
確かに、秋になると、きのこはたくさん発生しますが、
食べられる、食べられない関係なしに、
多種多様のきのこが見られる季節は、
どちらかというと、秋よりも夏なんですよね。

食用きのことしてお馴染みのエノキタケの天然ものは、
晩秋から初春にかけて発生、つまり真冬もにょきにょき。
また、サルノコシカケの仲間のように、
1年を通じて見られる多年生のきのこもあります。

今回ご紹介するシロキツネノサカズキモドキは、
知る人ぞ知る、春に発生するきのこなんです。

ぼくは、草花を見るのも好きなので、
カタクリ、キクザキイチゲ、アズマイチゲ、
エゾエンゴサク、ニリンソウなどなど、
いわゆる「スプリングエフェメラル」を見るために、
春の訪れを待ちわびて、関東や東北各地の、
森、というよりは、里山へ出かけます。

最初は色とりどりで可憐な草花に歓喜してるのですが、
知らずのうちにじりじりと「本能」がざわめきだし、
気がつけば、きのこを探しているんですよね……。
シロキツネノサカズキモドキは、そんな、
色とりどりの草花が生えている春の里山の、
半ば土に埋もれかけているような落枝から発生します。
(この写真は群馬県で撮影しました)

白くて細い高さ2〜3cmの柄の上に、
真っ白い毛が生えた直径1cmほどの真っ赤な「盃」。
小さなワイングラスのような形をした、
この小さなきのこを、キツネの盃に見立てるなんて、
命名者はロマンチストなのかもしれませんね。

シロキツネノサカズキモドキは子嚢(しのう)菌なので、
胞子は「盃」の内側分でつくられます。
成熟したきのこをちょっと手でつっつくと、
胞子が煙のようにぶわっと舞い立つんです。

食不適。
まあ、姿はかわいいけど、
細くて長い毛がたくさん生えているし、
まったくおいしそうに見えません。
食べたらじゃりじゃりしそうですな。
しかも、すごく小さいし。
観察に徹したいきのこでございます。

シロキツネノサカズキ「モドキ」ということは、
モドキじゃない「シロキツネノサカズキ」も、
当然のごとく存在します。

モドキではない本家本元?は、
シロキツネノサカズキモドキとそっくりで、
見た目ではほとんど区別がつきませんが、
春ではなく、夏に発生します。
あと顕微鏡で観察すると胞子がひと回り大きいとか。

何はともあれ、
スプリングエフェメラル、春の妖精を目にしたら、
ぜひ、林床のきのこも探していただきたく存じます。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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