食毒不明。疑わしきは食せず。
シャグマアミガサタケ
猛毒
写真と文章/新井文彦

シャグマアミガサタケは、阿寒湖周辺では、
4月の終わりから5月、つまり、春に見られるきのこ。
主にトドマツの森の林床で発生します。

この写真は6月上旬に撮影したので、
色も姿もちょっとくたびれたような感じがします。
きのこらしからぬ形をした子嚢(しのう)菌なので、
胞子は子実体の表面から放出するんです。
つまり、ぼろぼろに見えるのは、
胞子を飛ばした跡とも言えるわけで。

ぼくは、きのこの子実体のこういう末期的姿が、
けっこう好きなんですよね……。
ドロドロに溶けたヒトヨタケを見ても、
ああ、頑張って生きてきたんだなあ、と思います。

人間をはじめ、哺乳類の動物の赤ちゃんって、
誰が見ても、すごくかわいいですよね。
動物学者のコンラート・ローレンツ博士によれば、
「ああ、この、かわゆく、か弱き者を助けたい!」
というような保護本能的性質というものは、
誰にも生まれつき備わっているのだとか。

一般的なきのこの幼菌だって、すごくかわいいです。
でも、でも、残念ながら、普通の人は、
まん丸で、ずんぐりしていて、雪だるまみたいな、
超絶かわいいきのこの幼菌を見つけたとしたら、
「おいしそう!」って思っちゃいますよね(笑)。
保護どころか真っ先に採取されちゃいそう……。

でも、でも、
若いばかりが、可愛いばかりが、美徳ではありません。
この原稿を書いている時点で11歳になる、
我が愛犬・柴犬のはなさんは、人間の歳に換算すると、
還暦くらいだそうで、老犬の域に達しつつあります。

生後3か月から家に迎えましたが、
若いときは若いなりに、歳をとったらとったなりに、
常に飼い主を魅了し続けています。
きのこだって、おんなじ。
老いも若いも、それぞれの魅力があります。
そう、年齢は、美醜を計る尺度じゃありませんから。

そんなわけで、森で朽ちていくきのこを見つつ、
柴犬のことを思い出していた、と……(笑)。

シャグマアミガサタケは、
赤褐色系で不規則な脳みそ状の頭部、そして、
太く円柱状でシワがある柄の部分に分かれ、
高さは、7〜10cmくらいになります。
毒きのこというより、猛毒きのこです!

なんと、ヨーロッパあたりでは、
十分に茹でこぼしてから食用にするらしく、
フィンランドでは、水煮の缶詰も販売されているとか。
ところが、シャグマアミガサタケは実にクセモノで、
極めて揮発性が強い毒成分を有するために、
調理中に発生したガスを吸い込んだだけで、
死亡に至る例もあるんですね、これが。

誤食した場合、4〜24時間で発症。
最初に、嘔吐、腹痛、下痢など胃腸系の症状が現われ、
ついで、黄疸、乏尿など、肝臓腎臓障害症状が出て、
胃、十二指腸、腎臓などからの出血、
循環器不全、呼吸困難、昏睡、
そして、死に至る場合もある、と。
ひいい。

観察する分には、実に魅力的なきのこですが、
まあ、もろもろ、十分にご注意あそばせ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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