おしい!食べられるんです!
マスタケ
食
写真と文章/新井文彦

写真の上の方に写っているきのこが、
ぼくの手のひらふたつ分くらいの大きさ。
その下のきのこは、けっこうな大物です。
その名は、マスタケ。

マスタケは、夏から秋にかけて、
広葉樹、針葉樹、まったくお構いなし、
生木、枯木、倒木、これまたお構いなしに、
幾重にも重なり合ってたくさん発生します。

いかにもサルノコシカケの仲間、という半円形。
傘の直径が40cmを超えるものもある大型きのこです。

そして、どうです、この色。
派手過ぎず、地味でもなく、楚々として、
新緑の森に美しい彩りを添えています。
何と美しいサーモンピンク色!
まさしく「鱒茸」。

写真に写っているのは、胞子を撒く部分、
小さな穴がたくさんあいている裏側ですが、
表面はもっと派手な感じの朱紅色です。
(そして内部は本来的な「鱒」色!)
成長するにつれて、表側も裏側も、
どんどん鮮やかに色づいていきますが、
一転、古くなると徐々に白く退色します。

よく見ると、しっとりビロード状の傘の表面には、
滲んだような環紋状の濃淡模様が見られます。
何でも、かの俵屋宗達は、マスタケの成菌を見て、
「たらしこみ」の技法を思いついたとか。

すみません、ウソです。
最近、琳派に凝っているもので……(笑)。

そして、このきのこ、食べられます。
しかも、けっこうおいしい!
フライ、天ぷら、バター炒めで食べると絶品で、
きのこらしからぬ、とろり、とした食感が楽しめます。

ただし、食べられるのは、幼菌時のみ。
触ったとき、耳たぶくらいの柔らかさだったら大丈夫。
成菌は、触るとぼろぼろと崩れるようになり、
食べるどころではなくなります。
また、幼菌であっても、生で食べると中毒を起こし、
下痢、嘔吐、腹痛、めまいなどの症状が出ます。
どうぞ、ご注意を。

ちなみに、このマスタケが生えているのは、
大きなカツラの木の根元部分です。
カツラは寒冷地の渓流沿いに多く生育する木で、
根元から複数の幹が伸びることが多いのですが、
この木の幹はほとんど折れてしまって残りは1本のみ。

ところが、腐ったような根元部分は、
他の植物にとっては栄養ばっちりのパラダイス。
ということで、いろいろな樹木の種が落ちて発芽し、
今では、なんと、コケやシダは当たり前、
けっこう立派になったトドマツやミズナラが、
カツラの根株から一緒に生えている状態なんです。

発生樹木を選ばないマスタケとしては、
願ったり叶ったりの環境だと言えるかも(笑)。
それにしても、何たる自然の豊穣……。
たまりません。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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