カノツノタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

おそらく、きっと、たぶん、
「どこにきのこが写っているのさ?」
という疑問を発する方がいらっしゃるかと……。

写真右側の折れた幹から、
にょきにょきっと伸びている、
白黒半々くらいの細長い物体が、
今回の主役、カノツノタケでございます。
もちろん、きのこです。

カノツノ=鹿角と命名されているくらいなので、
真ん中から上の部分が、2つから4つ程に分岐して、
まさに鹿の角のような形をしているものもあるとか。

それにしても、どうです、この風格。
え?え?風格……?
あ、例によって、話は、何の脈略もなく、
正面に写っている巨木へと飛んでいます。
皆さま、ついてきてくださいね(笑)。

阿寒の森を歩いていると、
時折、びっくりするくらい大きい木と遭遇します。
大人3人でも抱えきれないほど大きなイチイとか、
根本の直径がゆうに5mを超えているダケカンバとか。

この写真に写っている木は、
そんな巨木陣にあっても圧倒的な存在感を誇る、
樹齢800年とも言われているカツラです。
どっしり、どど〜ん。

ぼくは、思わず言葉を失うような、
素晴らしい自然の風景や造形を目の当たりにしたとき、
基本的に、自然科学とは対極にある、
精神世界的付加価値をつけることを良しとしません。

しかし、こんなカツラの巨木を見たら、
やはり、畏敬の念を抱かずにはいられません。
この木が生まれた800年前、1200年代前半と言えば、
後鳥羽上皇、征夷大将軍源実朝の時代ですよ!
「行く川のながれは絶えずしてしかも本の水にあらず」
で始まるあの「方丈記」を鴨長明が完成させた頃ですよ。
ほんと、すごいなあ……。

いつまで見てても見飽きない!
と、言いたいところなのですが……。
ものの数分もしないうちに、気がつけば、
うろうろと歩き、きのこを探しているわけです(笑)。

カツラの巨木でよく見られる特徴と言えば、
ひとつの根本から、多数の幹が、
まるで束ねられたように伸びていること。
(ハート形した葉は秋に落葉すると芳香を放ちます)

このカツラの巨木も、まさにそんな形状。
真ん中の幹が折れて、地面に転がっています。
その折れ目に、きのこ目センサーが反応!
見つけてしまったわけです。

カノツノタケは、夏の盛りに見られるきのこ。
高さ3〜8cm、太さは1cmないくらいです。
上部はとても粉っぽくて、
はじめは白く徐々に灰色あるいは肌色になり、
成長すると半分くらいまで色が変わります。
下部は黒くてややビロード状。
けっこう硬くて、力を入れるとポキっ、と。
チョークをイメージしていただくといいかもしれません。

まあ、こんな形状をしているので、
食欲と直結させるには相当な想像力が必要でしょう(笑)。
毒はないようですけど……。

ちなみに、
阿寒湖温泉街から数キロ離れた場所にある、
このカツラの巨木が生えている一帯は、
前田一歩園財団の所有地でありまして、
自然保護のため、一般の方の単独での立ち入りは、
菌糸、もとい、禁止されています。

見たい!行きたい!という方は、
前田一歩園財団が認定する「森の案内人」と同行のこと。
阿寒ネイチャーセンターでもご案内してます)
素敵な森ですよお……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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