ヒメコンイロイッポンシメジ
食不適
写真と文章/新井文彦

葛飾北斎、歌川広重と言えば、
江戸時代後期に活躍した浮世絵師にして画家。
その卓越した才能は、日本のみならず、
世界中で認められています。

北斎の代表作『富嶽三十六景』、
広重の名作『名所江戸百景』などなど、ぼくは大好きで、
いつ、どの絵を見ても、うっとりわくわくしちゃいます。

何がいいって、その大胆な構図と、繊細な色づかい。
当時、ヨーロッパでは「ジャポニズム」の一環として、
ゴッホなど西洋の作家にも多大な影響を与えたとか。

北斎や広重が多用した濃い青色=紺青色は、
もともと日本にあった顔料ではなく、
ヨーロッパからの舶来品だったらしいです。
「ペルシアンブルー」「ベルリンブルー」がなまって、
日本では「ベロ藍」と呼ばれていたそうな。

ところが、ところが、
ヨーロッパでは、広重の作品が評価されると、
この特徴的で美しい紺青色のことを、
「ペルシアンブルー」や「ベルリンブルー」以外に、
「ヒロシゲブルー」と呼ぶようにもなったとか……。
すげえな、広重!

さて、さて、
この辺りで、再び、じっくりと、
写真をご覧いただこうかと……(笑)。
そう、北斎や広重の絵から抜け出たかのような、
それはそれは美しい藍色系のきのこ。
ヒメコンイロイッポンシメジです。

傘も、柄も、同じような繊維質で、
紫がかったやや暗めの青色。
(ヒダの色は傘よりやや薄い)
まさに、ベロ藍!
「ヒメ」と名付けられるくらいなので、
傘の直径は、およそ0.5〜1.5cm、
高さも2〜3cmほどの、小さな小さなきのこです。

阿寒湖周辺では、盛夏から初秋にかけて、
針葉樹林の地面、特に、コケの間で、
たまに見かけることがある、という感じの、
けっこう稀少なきのこです。

毒は無いようですが、
見る機会はあまり多くないし、小さいし、
群生しないから収穫量は期待できないし、
おいしい!という情報もほとんどないので、
食菌としての価値は、まあ、ほとんどありません。
あしからず。

ちなみに、江戸後期、
高価で入手困難な輸入品だったベロ藍を、
日本で初めて使ったと言われているのが、
『白象群獣図』で有名な、奇想の画家・伊藤若冲。
動植物を描いた『動植綵絵』という作品で、
ルリハタを描くのに用いたそうです。
さすが、お金持ちのおぼっちゃま(笑)。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする